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第24話 アデュウ私の青春

(1786年頃・オスカル満30歳)

 ジャンヌ脱獄す。
彼女は謎の覆面男に、一仕事を約束することと引き換えに牢屋から出してもらったのだ。
つまり、彼女は王室をおとしいれるための格好のエサになってしまうのだ。誰がおとしいれようとしているのか?謎の覆面男。この雰囲気はオルレアン公なのだが…うやむやに終わる。

無軌道な姉が心配で沈むロザリーに、生みの母ポリニャック夫人が屋敷へ来て欲しいと泣き落としにかかる。娘を引き取り、再び婚姻による権力拡大に利用しようとしているのだ。
その上、姉のジャンヌは、とある偉い人の保護の元、「回想録」を売り出し、売れまくる反動でロザリーはまたまた苦しむ。

冷静オスカルはその回想録に自分がアントワネットのお相手と書かれたことには動じないが、民衆がウソの醜聞を信じ込む事を恐れている。…だがすでに事実、そうなってしまっているのだが。
民衆はジャンヌに味方し、彼女の行方さえわからない始末で、ついにはオスカルにジャンヌの討伐命令が出る。
どうもジャンヌを捕らえたくないらしいオスカル。彼女がロザリーの姉だからというより、そう言う風にしか生きられなかったジャンヌにやや共感している様子。

 一方、ジャンヌはひっそりとした修道院に潜み、反王室の民衆や貴族に売り込む回想録の執筆をしているが、どうも疲れはじめておりいきいきしていない。無理もない、自由にいたずらを考えていた時は良い。今の彼女は、何処の誰かもわからない男の言うままに利用されているだけなのだ。一匹狼の彼女には多分、我慢できない事だろう。そして、一生に一度の大芝居が済んだ後の脱力感で飲んだくれるしかない。

 そうこうしているうちに、ジャンヌからロザリーに当てて、居場所を知らせる手紙と共に母親の形見の指輪が返って来る。相変わらず強がりの文面だが、これが彼女の妹に対する精一杯の優しさのようだ。それと、ジャンヌの心の何処かに早く捕まえて欲しい気持ちがあったのかも知れない。わざわざ居場所を知らせてくるとは抜け目のない彼女らしからぬ行動だ。ただ、矛盾しているかもしれないがそれがロザリーの通報であって欲しくはなかっただろう。ジャンヌはロザリーを信じたいのだから。
突き放しておきながらロザリーに何かを求めているジャンヌ…複雑な心境である。

 同じ頃、オスカルはなかなかジャンヌを捕まえられず疲れ果てている。
一方、ポリニャック夫人は、オスカルの身辺にジャンヌの知り合いが多いと言い掛かりをつけてロザリーを脅し、自分の屋敷へ引き取る段取りをつける。
へとへとのオスカルを見て、ロザリーは決意する。恩人に迷惑をかけたくない、そしてジャンヌの事は、信頼するオスカルに全てを託す。

 だが、回想録を書き終えたジャンヌは用無しとなり、まもなく捨てられるはずなのだ。その彼女をいまさらロザリーの通報で追い詰める必要もないだろう。又、ロザリーがジャンヌの居所を教えたのは個人レベルの事でもあるので、オスカルはその情報を白紙に戻している。
実はアニメ版ベルばらの基本姿勢として、オスカルの行動によって人の命が失われたりケガ人が出ないように極力してある。だから彼女がジャンヌを追い詰めて死に至らしめることはない。アンドレの失明、そして彼の死についてもそのうちのひとつである。この姿勢は最終話まで続いている。

 明暗を分けた姉妹の運命。
ジャンヌが唯一信用しているロザリー。この密告でジャンヌを捕らえることは、世の中全てから裏切りを受けてきたジャンヌが、最後まで信じていたものをオスカルが奪うことになる…と、オスカルは感覚的にわかっている。
そしてオスカルが好きだから離れて行くロザリー。何か腑に落ちないオスカルも、彼女を見送るしかない。
これでオスカルは守るものをまた失った。彼女はロザリーを妹のようにかわいがっていたが、オスカルの目はあくまで同性へ向けるもので、決してロザリーに対して、男っぽく優位に立って接してはいない。
とは言え、オスカルの心の中で、女性らしい「愛らしい」部分をカバーしていたロザリー。オスカルはそう言う意味で、ロザリーがいなくなったことでこの後、心のバランスを失う。

 さて物語の方は、色々な人間の思惑が交錯する中、ロザリーがジャルジェ家を去る直前、ジャンヌを用無しと見切ったオルレアン公(?)が、彼女の居場所を密告しており、直ちにオスカルに討伐命令が下る。

 どうせ捕まえるのならこの手で…。オスカルは結局つらい役目を引き受ける。
で、サベルヌの修道院に単身踏み込むオスカルは、疲れ切ったジャンヌを見つけるのだが、彼女には既にギラギラする反抗心も敵意もない。
それに武力突入ではなく説得をしに、単身でのこのこ乗り込んで来たオスカルにも彼女は素直だ。オスカルはロザリーの恩人でもある。彼女が妹を守って来たこともジャンヌには信用できる要因だったのだろう。
何となくしおらしくなったジャンヌに、居場所を密告したのがロザリーではないと言い切るオスカル。それがウソか本当かジャンヌにはわかりっこないけど。

「私のことを大切に思ってくれる人がいる」と、ジャンヌは最後に信じるものを見つけるのだ。何だか、あの世間を騒がせた女にしたら、そんなささやかな?…と言いたいけど、彼女がこれまで必死になっていたのは、そういう信じられるものをずっと探していたのかも知れない。
だからジャンヌは元々、そんなささやかなことで満足する女だったのかも知れない。こんな自分らしく生きられない世の中でなければ。

いままで涙すら忘れたジャンヌがふと素直になって見せる涙がそれを物語っているようだ。…そしてオスカルもまた…本来なら、ささやかな幸せで満足する女になっていたのかも知れない。
その隙を突いたニコラスの一撃で倒れるオスカル、そして以心伝心、駆けつけるアンドレ。一連のジャンヌの事件ですっかり忘れていたけど、アンドレもオスカルの危機を本能的に感じ取って彼女を助けに行くあたり、なかなかポイント高し。

 不思議なことにジャンヌはオスカルに対して敵意がない。
すでに燃え尽きた感じのジャンヌは、大事なものを見つけてくれた(?)オスカルを助けて、夫と共に自爆する。彼女は貴族に操られていたことに対し、自滅してプライドを守ったのだ。

「ごめんね…あたしひとりじゃ寂しくって…」
最後の最後でジャンヌは夫ニコラスに素直に甘えている。

人の弱みに付け込んで生きて来た女、ジャンヌ。だが、彼女自身が本当は弱くて寂しい部分を持っていた人間だったからこそ、人の弱さを知っていたのかも知れない。

 首飾り事件の真相は明らかになっていないが、ここではっきりしたのは王妃の不人気と革命へと続く世の中のただならぬ空気である。



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