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第26話 黒い騎士に会いたい!

(1787年の暮れ〜1788年の初め頃・オスカル満32歳)

 貧しい者の味方、黒い騎士登場。
実のところベルナールの活躍も、ジャンヌ事件の余韻でくすみがち。
子供時代から物語に登場しているジャンヌに比べて、ベルナールは苦労したであろう過去が語られていない。彼は正義の味方ではあるが、それ以上にはなれない。まあ確かに主役ではないのだから、個人的なことは割愛されても仕方ない。

その上、彼はこれから栄える立場(民衆側)の人間である。そして女とは違って、男でさえあれば社会の中で勝利をつかむことができるのだ。
特に彼は後半、民衆側のリーダー的存在になることが予測できる。彼の背後には希望があるのだ。だからジャンヌと同じように巨大な敵に立ち向かっても、彼には悲壮感がない。
アンドレの目を傷つけに出て来たようなもの…と言えば失礼だが。

 今回はオスカルとアンドレの、身分の違いによる、新しい時代への感じ方の違いを感じさせるお話。
時代の動きを肌で感じるアンドレに対し、とにかく何かを感じたもののまだまだ頭で考えようとしているオスカル。ついでにアンドレの想いも届かず、ふたりの心は何度となくすれ違っている。

 身分制度の不当性、人間の平等を説く神父の勉強会へ行くアンドレ。
オスカルの知らないところで何かが動いている。
フェルゼンへの想いをあきらめることにし、アントワネットの保護者のように付き添い支えることもなくなり、果ては愛らしいロザリーも去り、オスカルの手元には何も残っていない。
彼女はこれまでになく、一番空しい時間を過ごしているようだ。それでも時代の流れの中で、不穏な水面下の動きを感じてか、オスカルは黒い騎士とアンドレを結び付ける。
いくら何でも子供の頃から知っている相棒を疑うなんて、オスカルもよほど孤独な気持ちに陥っているのかも知れない。

 弱い者の味方・黒い騎士だが、所詮盗賊、非合法活動に過ぎない。
その闇の世界の人物・黒い騎士を、オスカルは捕らえたいと考え始める。
実のところ、目先のことで夢中になることがあれば、その方がフェルゼンのことで色々と物思いに沈むこともないのだ。
とりあえずムキになって舞踏会を警備しまくるオスカルと、彼女の「ムキ」に付き合う感じで同行するアンドレ。
彼の本音は黒い騎士を捕まえたがってはいない。しかし、盗賊は正しくないとオスカル。二人の考えの差は身分の違いか。

 不思議とアンドレがいない晩に現れた黒い騎士。彼の後を追ってオスカルがたどり着いたのがパレロワイヤルで、逆に捕まりかけて逃げ込んだのがロザリーのお隣さんち。
ロザリーはポリニャック夫人の元で結婚を強要され、逃げ出してパリの下町娘に戻っていたが、それが幸運にもオスカルを助けることになってしまう。
 ほとんど意識不明で倒れ込んだオスカルは、アンドレがこれまでとは異質なものになってしまったような気がして、彼が遠く離れて行く不安まじりの悪夢にうなされる。やはり精神的にバランス崩しているみたい。

 そして、ようやく起きたらロザリーとの感動の再会。
隣のおばさんから具の入ってないスプーン入りスープを勧められ、その心が嬉しくて、ありがたく頂戴するオスカル。
ここのところ心がからっぽになった彼女だったが、ロザリーたちのささやかなもてなしに、忘れかけていたもの…人を思いやる気持ち…を思い出す。
人は一人では生きてはいけない…と。
フェルゼンがいない、守るものがいない、だからと言って孤独にひたるのは独りよがりなのだ。

だが、これで民衆の貧しさも同時に痛感した彼女、このままではいけないと心にきざみつけている。そして、それ以上に本音で生きている心優しい民衆の暖かさも彼女は感じたはず。
ジャルジェ家にいつでも戻っておいでというオスカルに対して、「貴族なんてだいっきらい」と、ロザリーはパリの下町で自立して生きることを告げる。彼女は貧しくても生活がつらくても、平民の暮らしを選んだのだ(このあたりの性格設定がいかにも原作ロザリーと違うところ)。

人形のようにしか生きられない貴族の生活には見切りをつけた彼女。民衆の一人として自分らしく生きるロザリーがまぶしい。
そして、そんな民衆たちを人として扱わず、旧制度に縛り付けて苦しめているのもまた貴族。当然、自分のその内の一人なのだと、オスカルは身をもって実感する。

 …実にオスカルの回りには、人間らしくて強い人々が集まって来ている。もちろん、彼らはオスカルを慕って来ているのだが、オスカルもまた彼らに積極的に接近し、色々なものを学ぶことが出来る。強い絆の人脈に恵まれたオスカルの人徳というものだろうか。
 折しも黒い騎士を支持するパレードがパリの町を練り歩き、オスカルはますますこれからの自分の進路と言うものを模索する。

 貴族という身分を、彼女はこれまで以上に恥ずかしく思っている。そもそもは制度上、必要なポジションとしての貴族の身分だっただろうし、意義も誇りもあっただろう。だか今や身分制度そのものの在り方が不平等を生み出しているので、彼女はいたたまれない。
これでいいのかオスカル。貴族なんて何のためにあるのだ、貴族のお前はこれまでのようにのうのうと民衆の上であぐらをかいていていいのか、彼女は自問したであろう。
だが彼女は民衆の敵と見なされた王妃の人柄も、民衆の苦しみも、両方知っているのだ。答えは簡単に出て来ない。

 そのいらだちからか、勉強会から帰って来たアンドレに当たってしまうオスカル。
アンドレは落ち着いたもので、それならばとオスカルを勉強会に連れて行き、新しい時代を待ち望む身分を越えた人々の姿をオスカルに見せる。彼はオスカルに色々な現実を知って欲しかったのだ。
平民のアンドレはたとえ貴族に雇われていても、その時代の変わり目を貴族のオスカル以上に感じ取っている。
ロザリーの自立やアンドレの察知した新しい空気、それは新しい時代を望む民衆たちの姿。

そして、もしかして彼らの先駆者かもしれない黒い騎士。
オスカルはただものではなさそうな黒い騎士に、次第に盗賊以上の興味を持ちはじめる。
この時代をどう生きるか、貧しい者の味方・黒い騎士が何を考えているのか、何かを彼から得ようとしたのだ。
 そう、常に強くなりたいと望んでいるオスカル。彼女は全ての現実を受け入れ、それに直面しながら力を得てきた。

彼女は、いきなり何もないところから理想を掲げて理想社会はこう在るべきだという理想論は振りかざさずに、今、現にある社会・状態に対して自分がどうかかわって行き、どうやれば人々の役に立つのか、そういう具体的な思考をし、現実から目をそらさない見解を持っていたようだ。

 さて、黒い騎士をおびき寄せるのに、自らの意志で偽黒い騎士になるアンドレ。ばっさり髪を切るアンドレにオスカルは一瞬戸惑い、驚いている。
この時、オスカルはまだアンドレに対して幼なじみの立場。自分の勝手で彼に命じたくないらしく、黒い騎士を捕らえる事に関しても、特に彼に協力を求めていない。むしろ遠慮して距離を置いているほうだ。
実は彼が自発的にその役を買って出たことで、後の失明もオスカルの責任は半減している。もしこれが彼女の全面的な責任だったら、オスカルは一生、自分を責めることになっただろう。

でもアンドレって自称楽天的、どちらかと言えばのんびりした人かと思えば、結構盗賊の才能もあったらしい。
時代の流れは貴族には不利だと、彼はオスカルにさりげなく言うが、本当はすごく近くまで迫りくる高波だったりする。
これが済めば勉強会でも何でも行くが良いなんて、ちょ〜冷たいオスカル。自分のために彼を縛りたくない様子。

 フェルゼンの事を忘れようとしてか、この頃のオスカルは何かに集中しようとして感情が余計出て来ない。
確かに彼女にはまだ革命の姿は見えていないし、そうやって平民のアンドレに対して突き放すようにズケズケいう辺り、いかにもオスカルが彼を対等に見ていて、心を許しているにほかならないのだろうけれど、自分に構わないでいいよという表現がかえってアンドレには冷たい印象に写ってしまう。

一方、アンドレも自分の気持ちが全てオスカルに向いているからこそ買って出た偽黒い騎士なのに、相変わらず報われない。
彼は平民だけあって時代に敏感。でも、その本音は自分の為ではなく、新しい時代を知ることが彼女の為に役立つことを踏まえての行動なのに、今は人のことを考えられないほど余裕がないのかオスカル。…二人の気持ちはすれ違ってしまう。

 だが、オスカルはこれからの時代に貴族が不利だというのなら、自分の目で確かめたいのだ。
そしてもし貴族が滅びる運命なのであれば、貴族として生きて来た自分は人として恥じる事なくその力を人の為に役立てよう。…滅びて行くものに対する、オスカルの考え方がここにある。
貴族としての特権とか富とかには無欲なオスカル。彼女が何かにつけ強くなりたいと思っているのは特に自分の利益のためではなさそう。

 彼女はいまだ辛うじて滅び行く側(貴族側)にいて、アントワネットに忠誠を誓った昔を覚えている。
だが、その忠誠には、彼女自身が不当に感じている貴族社会の在り方(存在も)を認めなければならないという付録も付いている。
後は、その鎖をどの地点でオスカルが解くかが今後の彼女の問題である。

 だが、オスカルがふと感じた不吉な予感。それは的中してしまう。まんまと黒い騎士をおびき出したまでは良かったが、アンドレは彼との戦いで左目を負傷するのだ。



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