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第32話 嵐のプレリュード

(1788年6〜10月あたり・オスカル満32歳)

 今回は色々なエピソードが盛りだくさん。
衛兵隊に転属して一月余りのオスカルはアルデロス公の護衛を成功させ、それなりに隊内外での評価を得た。最初は女だからと反発を買いながらも、やがて隊の要・アランもオスカルの統率力を高く買い、「女」以外のオスカルの武官としての才能を認めている。だが、今回のようなラサール憲兵事件が起きると、やはり疑われるのは貴族のオスカル。彼女とアランたちの間にはまだまだ高い壁がある。

 また、アランが指摘したように、何かから逃れているようなオスカル。
でもアンドレが勝手に衛兵隊に入り込んだり、彼女の結婚話に反対してヤケを起こしたりと、彼はオスカルを動揺させる行動に出ている。それによって彼はオスカルの女心を確実につかみはじめているようだ。
又、どうも屋敷にもあまり帰っていないようなオスカル。幼なじみのよしみでもないけど、気持ちの上で二人はかなり接近してきている。

 オスカルとアラン。
彼の強い決意にやむなくケンカを受けてたつオスカル、剣を抜く。
夜の激しい雨の中、戦いが始まった。仲間を売った女隊長がやられるのを見届けようと、隊員たちもずぶ濡れになりながら外へでてくる。この中でオスカルを疑っていないのはアンドレただ一人。そして彼女がきっと勝つことを信じているのも彼一人。雨の激しさすら彼の目には入らない。

 素早いオスカルに引けを取らないアランの剣の腕前。男は土壇場になってからが勝負だとアランは言う。九分通り負けていながら尚も余裕があるアランに、オスカルの表情は厳しくなる。だが、怖いのはお互い様なのだ。そして隊員たちが見守る中、誰も気づかぬ早さでオスカルの剣がアランを捕らえる。

 勝負に負けたアランは無念の気持ちもあらわに苦しい気持ちをオスカルにぶつける。
隊員は銃どころか軍服まで売っているのだ、どんなに命がけで働いても給料だけでは家族を養えないのだと。アランのやり場のない怒りはオスカルの心に深く響く。

 彼女と対等に戦ったこの猛者が泣き言のように生活苦を訴えているのだ。
頼む、たかだか銃を売ったばかりに銃殺されるラサールの事を考えてやってくれと。貴族のひまつぶしの兵隊ごっこに付き合わされている俺たち民衆は命がけなのだと…。
そんなぎりぎりの生き方なんて、オスカルのような大貴族にはわかるはずがないと、アランは怒りを通り越してあきらめの表情。泣き言のようになっている自分がみじめで情けなくて、それを女相手にくどくど言っているのが自分でも嫌になったのだろうか…。彼の言葉は泣いている。

貧しいとは、かくも情けないと身にしみているアラン。弱いものを守りたいという、本音は優しい男なのだ。でも貧しさばかりは彼でもどうにもならない。そんな貧しさや無力感とは無縁の大貴族の娘オスカルに、思わず彼の怒りが向いても不思議ではない。

 激しい雨の中、アランの言葉を胸にきざんで、立ち尽くすオスカル。
なぜ、同じ人間なのにこんなに命の価値が違うのか。そして身分を隔てて理解しあえないお互いの立場。隊員たちの冷たい視線を浴びて、オスカルはいっそう身分制度の矛盾を実感している。
貴族とは民のためにこそ、その権威を使うのではないのか。
だが、現実は、貴族は民衆のことなど何も考えていない。宮廷にはこんな民衆の暮らしを心配する者などおらず、ただ己の財産を増やすことと権力の拡張・保持に努めているのみ。

王妃アントワネットすら貧しい民衆のことなど愛してはいまい、いや彼らの存在すら振り向いて考えたこともあるまい。オスカルはこうした現実に触れるにつれ、あれほど忠誠を誓ったアントワネットの姿がよりいっそう遠くに感じられたはずだ。
だが貴族に権威があるのなら、ラサールは何としてでも私が助け出して見せよう、とオスカルは決意する。

 (多分)翌日、ブイエ将軍にラサールの釈放を願い出るオスカル。ブイエ将軍も彼女の部下を思いやる必死の気持ちに押し切られた形でやむなく承知する。
 その頃、面会日に衛兵隊へ来ていたディアンヌは兄のアランに結婚する事を報告する。もうすぐ幸せになれる、といわんばかりのディアンヌのウルウルした目を見て、アランは喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない。守っていた者がいなくなるほど寂しいことはない。

そこへオスカルが衛兵隊に帰ってくるのと、アランとの面会を終えて門から出てきたディアンヌとがばったり出会う。
オスカルとは神と剣という意味だと兄から聞いたと、ディアンヌは目をキラキラさせながらオスカルに話しかける。恋すると何でも美しく見えるそうだが、彼女の目にオスカルはいかにも清らかで絵から抜け出てきた神々のように写っているらしい。
可愛い娘だなというふうに、オスカルの彼女を見る目が優しい。そしてディアンヌの後ろには、やはり彼女を守ってきた優しい男アランの影がある。愛されている娘は何と幸せそうなのだろう。

 一方、アンドレに妹の結婚を祝福されたアランはどう見ても意気消沈ぎみ。
それにB中隊のアイドル・ディアンヌが結婚すると聞いて、がっかりしているのはアランだけではない。
アンドレは今回は俺には関係ないぜとばかりに、恋人を他の男に取られたみたいだとアランをからかっているが、ついこの間には自分もヤケになってケンカを買っておいて、本当はひと事ではないのだ。

 その日の夕方には、オスカルの説得が功を奏してラサールが帰って来る。憲兵に挙げられて帰って来たのは彼が初めてなのだ。余りの珍事に集まってきた隊員に囲まれて、やっとほっとしたラサール。アランの顔を見るとついに泣き出してしまう。

 彼は隊長の手回しのおかげで生きて帰れたと言う。銃を売ったことをチクッたのはオスカルではなかったのだ。意外な結末に「あの女じゃなかったのか」と、隊員たちはざわつき、アランは言葉も出ない。振り向くとアンドレが「ほら〜、俺のオスカルはそんなことしてないぜ〜」と、ふふん〜という顔をしている。
 アランはさっそくオスカルに詫びと礼を言うが、彼女はさも何事もないように受ける。
嬉しい気持ちがあってもそれを隠してそっけなく、相変わらず氷のように冷静なオスカル。
そんなオスカルは可愛くないけど一本やられたアランはばつが悪い。取り敢えず、オスカルをからかってみて、あとは笑ってごまかすしかない。

彼女は決して冷たい女ではないのだ、意外と心は親しみやすいのかも知れない。不言実行型のオスカルに、細かい配慮(女性ならでは?の)と問題解決能力の確実性を感じたのだろう(これが同じ貴族でも男の隊長だったら、反対に何かまだ計算ずくかと疑うかも知れないナ。何事も同性同士の方が相手に厳しいものだし、今回は彼女が女だったからこそ余計に丸くおさまったような気もする)。これでアランには、アンドレのオスカルを想う気持ちが少しはわかったはずだ。

オスカルはアランのばつの悪そうな感謝に、「あいつ、私の腹をさぐったな…」というような顔をして笑っている。アランはいい男だ、いい奴と知り会えたと思っているのだろう。

 その夜、ブイエ将軍に礼を述べに行くオスカルとその付き添いのアンドレ。
貴族の屋敷で育っただけあってアンドレは身のこなしが上品。目上の者に礼を述べる時は、こう言う印象の良い部下を連れて行くのが得策なのだ。

 ところが、パリのオペラ座にいる将軍の元へ出掛けて行く途中、二人は貴族の馬車に乗っていたために、飢えた民衆に襲われてしまう。
貴族と見れば民衆は襲いかかるとアランが心配した通り、二人は貴族の馬車から引きずり出され、暴徒の中にそれぞれ引き離される。
貴族憎さに襲いかかる人の波は後を断たず、殴る蹴るの暴行を受ける二人。お互いに相手をかばうものの、オスカルはアンドレを見失ってしまう。

そして暴動を聞き付けて鎮圧にやってきたフェルゼンが、オスカルを助け出した時には彼女は意識もうろう、服もボロボロになっている。
だがフェルゼンに助けられ、路地に逃げ込んだオスカル。かつてないほど間近に迫って彼に見つめられても瞳さえ揺れない。フェルゼンの事など眼中にないのだ。
そして我に返った彼女は思わず叫んでしまう、「私のアンドレが危ない」と。

それを聞き逃すフェルゼンではない。その一言で全てを理解した彼は、いちいち「君の!」アンドレは私が連れて来る、と言い残して再び危険な大通りに飛び出して行く。

 何と、自分の言葉に驚くオスカル。よりによって愛していた(はずの)フェルゼンの前であのような事を言ったのが信じられない様子で、彼女は動けない。
もちろん、アンドレに駆け寄ることすらできない。彼女は今、自分の心に向き合いはじめたばかりなのだ。
身の危機の中でふと気がついた本当の自分の姿。あんなに女を捨てようとしていたはずなのに、心はアンドレという独りの男性を求めている。それを確かめるのが怖くて、オスカルは立ち尽くす。だが、もう逃れることはできない。自分の気持ちがわかってしまったのだ。

それにしても激情のすごさ。これほど冷静・聡明なオスカルが「私のアンドレ」とは、少し意外だった。非常時なので取り繕うひまがなかったのだろう。確かに原作の名セリフなのでそれなりに嬉しかったが。

 その頃フェルゼンは縛り首寸前になっているアンドレを救うために、自分が囮となって彼から暴徒を引き離してやる。民衆を引き付けたフェルゼンは不敵な笑い(コワい)を浮かべて、オスカルたちから遠ざかって行く。オスカルとの友情に応えるために、それから彼女の幸せのために。フェルゼン………いい男である。

 アンドレを意識してしまったオスカルと、暴徒に縛り首にされそうになって放心状態のアンドレ。無言で屋敷に帰ったであろう、ヨレヨレの二人。
翌日、ばあやに小言を言われながら妙に陽気なオスカル、きっと胸キュン状態。彼女の頭の中では、自分が言った「私のアンドレ」という言葉が渦を巻いている。
今、自分がいい恋をしていることすらまだ信じられないだろうけれど、サンルームの窓に流れる雨の滴が、まるで彼女の燃えそうな気持ちを鎮めてくれているよう。

そこへ痛々しい包帯姿のアンドレがやってきて、フェルゼンが無事に帰ったことをオスカルに報告するなりさっさと部屋に引き上げる。
多分、傷だらけの姿を彼女に見せたくないのだ。また、オスカルも笑顔で答えながら彼にショコラを勧めていたくらいなので、シャツを引き裂かれた事はもうこだわっていないようだ。

 窓の外は雨、あじさいが咲いており日本で言うなら梅雨時、6月ぐらいだろうか。フェルゼンとの別れも醒めやらぬはずが、何とオスカルは切り替えが早いのだろうか。やはり彼女はずっと前からアンドレが好きだったとしか思えない!!

 では、と。オスカルとアンドレがこのままうまく行ったかと言えば、ジャルジェ家の跡取り問題が片付き、平和な世の中が来るまでは平行線だったと思われる。
アンドレはひたすら愛を与え続け、オスカルはアンドレの気持ちを知りつつ、ジャルジェ家の責任から、彼との恋愛を先へと延ばすかも知れないなぁ…。とりあえず彼がそばにいたら寂しくないし、何となく曖昧な関係も彼女には恋愛の一つのようだし。うやむやな男と女の関係がある日突然変わるのは、何かのきっかけ次第だろうし。本当に二人を見ていると、じれったくてやきもきしてしまう。

そんな心の揺れが描いてあるシーンが、このあたりには多くある。
ちなみに同人のサイドストーリーもこのあたりのお話が多いんじゃないのかな?
アニメ版も時間があればこの辺にもう2〜3エピソードを入れて欲しかった。

 その後、二人がどうなったのかわからぬまま季節は秋になる。
オスカルは気持ちの中でアンドレのことを好きなんじゃないだろうか…と思いつつも、強いて突き詰めて考えなかったのだろう。普段一緒に隊で働いているし、アンドレもいつもそばにいるので、離れ離れになって相手を求めて恋しがるような出来事もない。

あまりに近くに居すぎて、彼の存在の大きさに気が付いていなかったのだろう。大きな変化はなかったようだ。
 ある秋の日の雨上がり、アランが妹ディアンヌの結婚式のために休暇を取ってからそのまま一週間も無断欠勤する。給料も取りに来ず、病気の母親もいることから、隊員たちは心配し始めている。
そんな中、アンドレは彼に給料を届けてやりたいとオスカルに提案する。もちろん、彼らと同じように何か異状を感じたオスカルはアンドレに同行する。

 住所のメモを見ながらアランのアパートに向かう二人。アランはアンドレの友達だから道案内を兼ねて先導するのは当然だけど、オスカルはアンドレの後ろからのこのこついて行く。隊では格が上のオスカルは、部下の後ろについて行くなんてしないだろうが、アンドレと二人きりになると肩書がはずれるのか、彼の後ろから疑いもせずについて行くオスカルがなぜか自然に見える。

 アパートではアランの部屋の階下のおばさんに彼の部屋が臭いと嫌みを言われ、異様な空気を感じる二人。
(このとき、階下のおばさんにイヤミを言われ、顔を見合わす二人の自然な表情がすっごく仲良さそうでいい!)
そして、アラン一家のドアを開けるなり、異様な空気は激臭に変わる。
締め切った部屋は薄暗く、動くものもない。ポツンと椅子に腰掛ける老婦人がうずくまるようにしている。アランの母である。

彼女はいきなり語り始める。アランはずっとディアンヌのそばにいると。
これはどうにもとんでもないことが起きていると感じた二人が奥の部屋に行くと、そこには激臭を放つ腐った肉の塊と化したディアンヌが横たわっていた。そしてそんな彼女を見守っている憔悴しきったアラン。
ベッドの脇には首を吊ったロープがそのままになっており、悲惨な結末かいかにも生々しい。

 愛されていたはずの男に捨てられ、ディアンヌは世をはかなんで自殺したのだ。
アランは名前にドが付いていることから一応、貴族のはず。だが、彼の一家は没落して、貴族というのも名ばかり。貧しい民衆と同じように社会の底辺にいて、その日の暮らしにも困っている。そんな中で、ディアンヌは同じような貴族の青年と恋に落ち、希望に満ちて結婚を約束したのだろう。だが、その相手の男はお金に目がくらんでディアンヌを捨て、金持ちの娘に乗り換えたのだ。

 愛してくれた娘よりもお金が優先する社会。貧しさが人の心をよけい貧しくしている世の中。制度では貴族だからと優遇されているが、貴族だからといって決して人間として優れているのではない。ディアンヌもディアンヌを捨てたひきょうな男もまた貴族なのだ。
アランは妹の死をどうしても信じることができず、ずっと妹に付き添っている。彼は心の整理が付くまでは隊には出て行かないと言う。あんなに強い男が涙が涸れるほどに悲しんでいるのだ。

二人はかける言葉もなく引き下がるしかない(でも、葬式の段取りくらいつけたと思う)。ところでここでもアンドレはオスカルをかばうようにして彼女より前に出ている(とっても頼もしい)。
妹の悲劇を正面から受け止めすぎて、正気を失えなかったアランの苦しみを癒すことは誰にも出来ない。
アランの上司としてオスカルが仕切る場面でもいいのだが、現実、貴族のオスカルと平民の兵士たちとの間の壁はまだまだ高い。それにこんなにボロボロの姿をアランはオスカルに見せたくないだろう。ここでもオスカルは女性のポジションで描かれている。

 頭をうなだれ、隊に帰って行く二人。
オスカルがついこの間直面した結婚という問題。人の弱さ、かりそめの愛情という絆のもろさが二人の上に重くのしかかっている。
アンドレの愛情がそんないい加減なものだとは言わないけれど、ディアンヌのはかない最期を思うと、人生の喜び事すらオスカルには無常に感じられただろう。
誰がこのような悲劇を予想できたであろうか。

「愛していたのに…」ディアンヌの嘆きうめく声が聞こえて来るようだった。

 人が人を信じられない時代。平気で人を裏切るような時代。昨日まで生き生きと輝いていた者が、ある日突然この世を去ってしまう時代。
これが今から生まれ変わろうとしているフランスの現実なのだろうか。オスカルには次に来る時代がそのような出口のない「トンネル」のような気がしてならなかった。そして貴族であろうが平民であろうが、常に弱い女には不幸が覆いかぶさるのだ。

 ディアンヌの結婚に動揺しなかったオスカルも、彼女の死にはショックを隠し切れない。人の命のはかなさ、そして激動の時代の中で翻弄される人の心。オスカルの不吉な予感はもうすぐ我が身にふりかかるのだ。
折しもパリの町では、新しい時代のために三部会を求める市民たちのデモ行進に出会う。新しい時代への流れ、それは誰にも止められないのだ。たとえそれが悲しい時代になろうとも。



2001.1.28.up