アニメ版 ベルサイユのばら 徹底解説>HOME

第33話 たそがれに弔鐘は鳴る

(1788年暮れ〜89年6月4日・オスカル満32〜33歳)

 今回からロベスピエールを中心として歴史的な進展が本格的に始まる。
民衆側からの視点で話は進み、革命への直接の引き金は王室が旧体制を維持しようとして不当に武力鎮圧に乗り出したことへの反動として描かれる。

29〜32話までがオスカルの主観的な行動を中心に衛兵隊転属とそこでの人間関係を描いたものとすると、今回から4話は革命前日までの歴史的な流れと政治事件に関することに重きを置いている。演出は物語の舞台全体を描き、今回から彼女は時代を冷静に見つめる第三者となる。ある意味、それは最終回まで続く。

 オスカル率いるフランス衛兵隊は、国家からの命令と体制に反発する民衆との板ばさみになり、政治事件に巻き込まれて行く。そんな中でオスカルとアンドレは激務に追われ、個人的なことを後回しにしてしまう。

 今では部下からの反発を食らう事なく、任務に没頭するオスカル。新しい国家のために兵士たちと共に全力を尽くす彼女は、傲慢な貴族の武力行使に怒り、明らかに民衆側へと傾いて行く。
ロザリーを手放してから守るものがなくなってしまったオスカル。
守られたい裏返しの感情なのだろうか、強く生きたい気持ちからだろうか、必死で守るものを探して来たオスカル。彼女は今、自分の力で民衆を守ろうとする。
そして、我を忘れて働く彼女は、自分の命すら擦り減らしていくのだ。

 考えてみればオスカルもアンドレも、自分で何でも背負ってしまうタイプ。この二人が惹かれ合うのもお互いの気持ちが共鳴したんじゃないのかなぁ。できればもっと平和な時代に出会っていれば……と思う。

 宮廷貴族を養う国家予算の破綻、アメリカ独立戦争への参戦、イギリスとの通商条約による失業者の増加、王室による長い間の浪費、そして不幸にも冷害による作物の不作。
膨大な借金をかかえた王室による度重なる増税で、民衆は不満を胸に抱き貧しく飢えていた。そして、これ以上の増税を平民たちに納得させるためには、175年ぶりに三部会を再開することが必要であると一部の貴族が声を上げた。

 全国三部会。その開会は3つの身分、貴族・僧侶・平民のそれぞれから代表を議会へ送り、彼ら国民から選ばれた議員によって新税を承認させるのが目的である。
だが、三部会の招集が決定したのは、民衆によるデモや彼らの不満が理由ではない。三部会を招集することで民衆の人気を得、王室の権力を弱め、それに乗じて権力の座を取って変わろうとした貴族たちの造反によるものである。この地点で、すでに貴族による革命は始まっていたと言えよう。

また貴族たちや高等法院は特権階級への課税に反対して、三部会による決議に責任を転嫁した。だが、彼らは事態の深刻さを理解しておらず、これまでの特権階級としての優位がいつまでも続くと信じていたのである(とまで詳しくアニメで言っているわけではないが、市販の歴史の本にはそう書いてある)。
アニメでの進行を平たくいえば、王室が国家のツケを平民に押しつけたので、平民がキレそうになっている状態、と言ったところ。

 三部会への期待を込めたベルナールによる演説を聞きに行っていたアンドレ。自由と平等を求める民衆の気持ちが熱く語られ、もう人々は不完全な絶対王制では満足できない。
演説を聞いたアンドレはベルナールに励ましの声をかける。久しぶりに再会した二人。成り行きとは言えベルナールはアンドレの左目を失明させた男なのだが、アンドレにはそんな事はどうでもいいようだ。
ベルナールはアンドレを自宅に招き、今では彼の妻になったロザリーに会わせている。

幸せそうな二人を見て、どこか寂しそうなアンドレ。だが、彼は自分の選んだ道を後悔してはいない。
ベルナールとロザリーはロベスピエールの組織で働いており、アンドレにも仲間にならないかと誘う。

 時代は確実に変わる。どんなに暗い未来しか見えなくても、心に希望が有る限り、男たちは恐れず突き進んで行くのだ。
後期に入りアンドレの積極性が目立つ一因は、彼の平民という身分が勢いを持ち始めたことによるだろう。平民として時代に流れにすんなり溶け込み、違和感のないアンドレの姿。
アンドレにも彼の熱い気持ちは理解できる。彼自身が身分制度に苦しめられてきたからだ。
だが、そんな熱心なお誘いも軽く受け流すアンドレ。

オスカルを守りたいという気持ちと、彼女の信念、そして武官としての判断と行動が決して過ちを犯すことがないと信じて、あくまでオスカルと共にあろうとしたのだ。
 アンドレがベルナールの元を訪れ、これから栄えていく民衆の強い信念と決意を感じ取っている頃、一方でオスカルは、ムードン城に出向き、傾きかけた王室の実態を見ている。そこには新しい時代どころではない重苦しい空気が流れているのだ。

 1789年1月、ルイ16世は三部会の招集を布告。新税の承認を三部会に委ねるということは、何でも絶対であった絶対王制に制限を加えることになり、貴族たちは王室の権力を弱めることに成功したのだ。
又、この年の冷害による食糧不足で、パリは食料関係の暴動が春に多発していた。

 同年、春頃。王太子ジョゼフが病気の療養のために移り住んだムードン城に馳せ参じるオスカル。彼女はアントワネットに呼び出されたのだ。そうでなくとも衛兵隊に転属してからご無沙汰しているオスカルのこと、何をおいても駆けつけたに違いない。
(ところでここではオスカルとアンドレがそれぞれの身分の知り合いを訪ねている所が面白い。アンドレはこれから栄える民衆側の希望を見いだし、オスカルは落日を迎える王室の憂いを感じている。特に王室はジョゼフの病状の悪化で、新しい時代どころではない。)
ジョゼフはあと半年もつかどうかわからない。母であるアントワネットの口から悲しい事実を告げられ、絶句するオスカル。

まだ7つにしかならない少年に襲いかかった病魔。生きることの喜びも悲しみもそして素晴らしさも知らないまま、小さい命が今消えようとしている。…いたいけな少年の死は物語中最大の悲劇かも知れない。
前半のド・ゲメネ公爵にいきなり殺されたピエール坊やを思えば、彼はまだ貧乏を知らなかっただけ境遇はよかったのかも知れないが、どちらも子供には何の責任もない。

 ジョゼフがオスカルに会いたがっていると言うアントワネットの願いを聞き入れて、彼女は幼い王太子を本人の希望通り遠乗りに連れて行く。
この世の見納めとわかっているようなジョゼフは、オスカルの馬にゆられてはしゃいでいる。そして彼が少しでも病を忘れることが出来たのだろうかと、気遣いながら努めて明るく振る舞うオスカル。彼女は幼い命の重みを自分の腕の中に感じているだろう子供と触れ合うオスカルを見ているといかにも女性的。

 やがて疲れを出してぐったりとし、川辺で休むジョゼフとオスカル。まだ7つだというのに、この幼い少年はフランスの未来がかかっている三部会を見届ける決意があるのだ。
もしかしてこの聡明な王子なら、傾きかけた王室を立て直す力があったのかも知れないと思うと、ジョゼフはあまりにも早く御元へ召されたとしか言いようがない。

やがて殿下がルイ17世となられて…と、ジョゼフを励まそうとしたオスカルは、彼が泣いているのを見て言葉を詰まらせる。子供とは言え、彼は残り少ない命を燃やして必死で生きているのだ。その少年がいきなり、弱った両手でオスカルを抱き締めてキスをする。彼はオスカルを好きだと言う。今度生まれ変わったら、元気で立派な青年になるから、待っていてと…。

 その頃、聖堂でジョゼフの延命を願うアントワネット。
見守るフェルゼンは思わず愛する人に声をかけようとするが、そこへルイ16世がやって来て、彼の前を静かに通り越して妻の元へ行く。夫は妻の嘆きを共に分かち合おうと、フェルゼンの目の前で彼女と同じようにひざまずくのだ。
夫をいたわらなければと思いはじめたアントワネットは彼の気持ちを受け入れ、二人は並んでジョゼフのために神に祈りを捧げる。

その様子をじっと見ているフェルゼン。たとえ愛し合っているとは言え、二人を結ぶものはお互いの気持ちのみ。子供の苦しみを分かち合う家族として、運命共同体として心を一つにしている夫婦の姿に、彼の立ち入る隙もない。もちろん、ジョゼフの病について彼には何も責任はない。だが、彼の愛情がアントワネットに少しでも罪の意識を抱かせたのなら、今は彼女をそっとしておくほうがいいのかも知れない。

 これでよいのだと自分に言い聞かせるように小さくうなずき、二人の元を辞する。彼は再び静かにこの国を去る決意をするのだ。
それと、多分、妻とフェルゼンの事を知っているようなルイ16世。そんなことすら包み込んで、妻を愛する男として描かれている。

 何も語られるくだりはないがこの三人はそれぞれ関係を全て知っているようだ。だが、彼ら三角関係にもめ事はない。互いに認め合う…。人生、そんなものかも知れない。
しかし、ひとこと付け加えるなら、アントワネットにはいつも振り回されているフェルゼン。アントワネットは本当に自分中心(それが長所であり短所であろうけれど)で、フェルゼンにはやはり気の毒。

 しばらくしてある雨の日、アランが衛兵隊に帰ってくる。ディアンヌを失ってから病気の母も亡くし、墓のある田舎にこもるはずだったアラン。だが、彼はフランスの未来がかかっている三部会の開会を知り、隊に帰ってきたと言う。
平民議員、特に力を持ちはじめているブルジョアたちが、議会で貴族をやっつけることを信じているのだ。雨が上がれば5月だと言っているので今は4月あたりだろうか。

 また、その後すぐにアンドレはオスカルに、フェルゼンがスウェーデンに帰国したと報告している。「お前によろしくとの伝言が届いている」とかなりくだけた報告。
だが、色々思う事もあってか、無言のオスカル。例の「私のアンドレ」の一件が彼女の脳裏には焼き付いているのだろう。今の彼女の頭の中にフェルゼンは存在しない。もう、変わってしまった自分。それと、フェルゼンの突然の帰国について、オスカルの感受性はどこまで彼の悲しみを察知したのだろうか。
そんな事を考えていくと、アニメベルばらは語られない所で物語が膨らんで行く仕掛けになっている。

上の空になっているオスカルをアンドレは不審そうにしているが、彼女はさも何事もないように話題をふり、三部会警備の訓練に入ることを告げる。雨模様の窓の外からロングに引いた映像からは二人の表情は見えない。だがどう見ても、この二人の間に邪魔者はいない。…そうすると、どこへも受け入れてもらえなかったフェルゼンが、やはり今となっては一番気の毒なような気がする。

 彼女の心にフェルゼンはもういない。反対にアンドレに対する気持ちが次第に大きくなっているらしきオスカル。それぞれの想いが伝わってくる雨の司令官室…二人きりの部屋での沈黙…。ロングに引いた画面からはそんな事を感じるのだ。

 5月4日、三部会の開会式を控え、議員たちは合同のミサをあげるべく教会に向けて行進することになった。行列の護衛はスイス近衛連隊と、オスカル率いるフランス衛兵隊。
この記念すべき日のためにベルサイユ宮に戻って来ているジョゼフの為に、オスカルは気持ちを込めて隊を指揮する。

そしてさりげなくアンドレに寂しく笑いながら「私は王妃になり損ねた…」と言っている。
子供は真実を見ている。オスカルがきれいなお姉さんに見えたのだろう。それを否定しないオスカル。もう完璧に自分が「女」だと落ち着いているのだろうか、だって私はアンドレの妻になるんだも〜ん、なんて思っているのかも知れない。
ニブいアンドレは何がなんだかわからずとぼけているけど、今の状態でプッシュすればオスカルは必ず落ちる、そう思える。

 さて、小さな求婚者に見守られながら、議員たちの行列を警備するオスカル。
行列にはロベスピエールをはじめ、後の革命を推進した重要人物たちが含まれており、中には貴族でありながら平民議員として選ばれた者もあり、もはや時代は貴族であることが絶対ではなくなっていた。

 死期を悟ったジョゼフは食い入るように議員たちの行列を見守っていたが、病状が悪化。
にもかかわらず翌日5月5日、三部会の開会式が挙行された。国家の威信をかけた晴れの舞台に、ジョゼフの容体を気にして取り乱しそうなアントワネット。
開会式の広間に国王が登場した時には拍手喝采なのに、彼女が登場すると、水を打ったように静まり返る。

 アントワネットは悟る。フランスの全土が、貴族や平民が、何を不満に思っているのかを。彼らはアントワネットの存在そのものを憎悪の的としているのだ。その異様な空気に気づくアントワネット。だが、一歩たりとも彼女は引かない。偉大な母マリア・テレジアの血が、今ようやく彼女の中で目覚めたのである。
戦いが始まったのだ。

 三部会が始まってひと月が経った。
貴族・僧侶・平民。この三つの身分の議員たちが自分たちに有利に議会を進めようとしているので、話し合いなどうまく行くはずがない。まして貴族・僧侶議員を足したのと同じ数だけいるはずの平民議員たちも所詮、烏合の衆でまとまってはいない。また平民たちの味方のふりをして三部会を開いた貴族議員たちはさっそく馬脚を現し、平民議員を身分差で封じ込めようとする。

 オスカルの心配はさしずめ、議会すら破壊するほど先走ったテロリストだろうか。彼女は議員の安全を守ろうと、議場の警備に神経をとがらせている。
またアンドレに、捨てるようにと放り投げた空きビンを彼が落としたことでオスカルは彼の視力を心配している。世話焼きアランの機転と、あわただしく出で行くアントワネットの馬車に彼女が気をとられてその場は収まっているのだが、やたら仲のいいアンドレとアランが微笑ましい。

 その夜、珍しく屋敷へ帰っているオスカルとアンドレ。再び、雨。
ジョゼフのかんばしくない容体を案じるアンドレ。
オスカルもよもやと自分に言い聞かせているが不安は募るばかり、それと彼女にはもう一つ心配事があった。アンドレの目の悪化。
オスカルはアンドレの目が見えていることをナイフ片手に?念押しする。笑ってとりあわないアンドレ。久しぶりに二人きりという絶好のチャンスだったのだが突然、鐘の音が響いてくる。

 6月2日、王太子ジョゼフは危篤状態に陥り、三部会は中断する。
苦しい息の下で三部会を案じるジョゼフはベルサイユ宮殿に帰りたいと言う。
ルイ16世はその時には護衛をオスカルに任せよう、と息子を励ますが…。
ジョゼフは最後に白馬に乗ったオスカルの美しい姿を思い浮かべ、苦しみを忘れてほほ笑んだ瞬間…。

 6月4日午前1時、弔銃の音が響く。オスカルは言葉もない。
幼い命が消えて行った悲しみを目に浮かべ、彼女はお悔やみを述べるべく肩を落として雨の中を消えて行く(関係ないが、雨に濡れたオスカルは髪がのびて色っぽい)。

 以下、普段ぼんやり聞き逃していたナレーションを引用する。
「第一王子、ルイ・ジョゼフは悲しい生涯を閉じた。しかし彼にとってこれから王室が迎えねばならない苦難を知らずに死んだのはせめてもの救いだった。三部会が開かれ、激しく揺れるこれからのフランスが行く道を。そして生き残った者、新しい時代に生き延びようとする者たちが取らねばならぬ道を」

 ジョゼフの死を悲しむオスカルもやがてアントワネットとたもとを分かつ。そして王室に反旗を挙げた彼女は、ジョゼフにさして遅れを取る事なくこの世を去るのだ。その後、王室はベルサイユ宮殿からパリに移され、そこからは権力の座を巡って、フランスでは血なまぐさい事件が続くのである。
 人々が生きていくために繰り返される悲しい事件の連続。崇高な理念を実現しようとして、志し半ばで倒されて行く者たちや、時代に翻弄され何も知らずに操られて消えていく者たち。そんな悲しい光景を見る事なくジョゼフは神に召された…。



2001.2.24.up