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第34話 〃今テニスコートの誓い〃

(1789年6月5日〜23日・オスカル満33歳)

 後期に入ってから「女性」というテーマでクローズアップされてきたオスカル。
今回からは彼女も歴史の動乱に突入し、いよいよ武官として行動に責任がかかってくる。
モノローグがほとんどない彼女の思考は想像の域にあるが、行動として今、王室に尽くすか・民衆に味方するか、二者選択を迫られる。古い力と新しい力がぶつかる時、オスカルは迷う事なく民衆の力となるべく奔走するのだ。

 三部会が始まり、オスカルとアンドレの仲は足踏み状態。和平的に世の中を変えようとする議員たちの為に、彼女は職務に徹している。
絶対王制は行き詰まっているのだ。この混乱を収めるにはまず身分制度を取り除き、貴族僧侶だけではなく力を蓄えた平民の協力が必要である。
彼女の敵は議員たちの話し合いを妨害する貴族達の圧力である。

国家として、人々がフランスの国民として、まとまりをみせはじめている今、何かが変わる、変わらなくてはならない。彼女の心の中は、新しいフランスのために力を尽くすことで一杯になっている。
無口なオスカルが自分自身の考えをはっきりと述べる回である。
ついでに言うと、こんな激動の回にポーとしているお茶目なアンドレも要チェック。ラストのオスカル救出で少しは挽回してはいるが…。

 議会は荒れていた。ロベスピエールは貴族議員・僧侶議員に向けて力強く演説している。フランスの人口の96%は平民であると。それに比べて僧侶・貴族はフランス全人民のわずか4%にすぎない。平民議員こそが真にフランスの代表である、我々に合流せよと叫ぶ。
三部会の開会が貴族の権力争いに端を発しているとすれば、それに利用された平民議員は、このチャンスを逃さず、力を徐々に発揮していく。

 一方、休みなく続く警備に、兵士たちは気力で頑張っている。
オスカルの今の任務は新しいフランスを生み出す三部会が成功するよう、議会と議員を守ることである。彼女の武力はそのためにあるのだ。
彼女の希望は三部会の中から生まれてくる新しいフランスの姿。人々の苦しみや悲しみが少しでも楽になるようにと、彼女は議員と議会を何があっても守る決意だ。

 アランはアンドレに、オスカルの顔色が悪いと忠告している。
目が悪くなっているアンドレには、彼女の変化が読み取れないのだ。だが後に、アンドレはオスカルに「何か秘密にしていることはないか」と聞く場面がある。彼は決して鈍くはないようだ。彼女の病気をうすうす感づいているだろう。

 今ではアンドレがオスカルを好きだということは隊の中にも知れ渡っていることだろうし、二人が並んでいるだけで隊員たちは陰でワイドショー状態になっていると思う。
彼らは、オスカルがいつ「オチる」か、賭けているかも知れない。
ただ、この頃の二人はあくまでパートナー(相棒)として留まっている。オスカルには常にアンドレとアランが付き添っているが、恋愛・その他、私的なことまで時間が回らないらしい。議会が進んで、もし落ち着いた世の中が来ていたら、彼女も自分を振り返る時間が持てたと思うのだが。しかし、アラン。隊長とダチのそばで世話を焼くのは解るがたまには二人きりにさせてやればぁ〜?

 このあと、何かと議会を妨害する貴族たち。オスカルはそのたびに体を張って議員を守ろうとする。彼女はその理由を言わないが、武力では何事も解決しないという基本的な姿勢を貫いているのは言うまでもない。
同じ民同士の流血。オスカルは世の中の変化を希望しつつ、過激な革命を何より恐れている。戦いなくして時代は移り変わらないのだろうか。人間とはそんなに悲しい生き物なのだろうか。誰かを守るために戦うことが武人の務めであると言うなら、武力で戦わずして人を救おうとしている議員たちを守ることは彼女の理にかなっている。
又、衛兵隊の兵士たちがオスカルの命令を聞くのは、彼女が明らかに民衆の味方であるとわかっているからだ。

 兵士たちが疲れを見せはじめたその頃、一人議場を見回るオスカル。彼女もかなり疲労がたまっている。
と、突然咳き込むオスカル。思わず口を押さえてうずくまるが、彼女の手袋にはうっすらと血が付いている。衝撃を受けるオスカル。だが、その事実を否定するかのように彼女はこぶしを堅く握り締める。今は自分の体に構っているほどの暇はないのだ。
それにしてもこの時点で病気に気付いたようだが、普通なら自分の命に関わることだから大騒ぎしそうなもの。だけど、いきなりそれなりの覚悟を決めてしまう思考って、軍人生活が長くて武人化してるのかも…とふと思う。

 三部会が始まってから、話はどんどん進む。特に6月に入ってからは膠着状態の議会は動き始める。
当初、僧侶議員が示した妥協案を貴族議員が見向きもせず、平民と肩を並べることを拒否した。そして時の人シェイエスによる提案、共同に物事を進める気がない議員は棄権と見なす、という発言が平民議員を力づけた。
15日にはシェイエスの発言に賛成して集まったものだけで新しい議会を作ろうという動きが出る。17日には平民議員と一部のその他の身分の議員によって、「新しい議会には、三部会という身分を隔てる呼び方はふさわしくない」とし、議会の名前を国民議会(アッサンブレ・ナシオナール)と改めた。彼らは議会の主導権を握り、絶対王制に大穴をあけたのだ。また、19日には僧侶議員が多数決により国民議会への合流を決議した。…というのが歴史の本には書いてある。

 王族や側近たちはこの事態を憂慮した。平民議員がこれ以上力を持つことを恐れたのである。彼らは国王に進言し、特権階級の権威を彼ら平民たちに見せつけることを提案した。
それは「議場の閉鎖」である。だが王はこの時、造反をたくらむ貴族たちを切り捨て、平民と手を組むという手もあったのだ…(実現しないが)。

 その日、オスカルに議場の閉鎖の命令が下る。
議会の閉会は国王であろうともままならないはず。横暴な貴族の実力行使にオスカルは腹を立てて反発する。議員たちはフランスの為に尽くしている。それはたとえ三部会という名前でなくとも同じことである。オスカルは、国を変えたいと情熱を燃やす彼らを守りたいのだ。
だが、議場の閉鎖は陛下のご意志なのだ、陛下の命令は絶対だとブイエ将軍は言い切る。
彼が話題をジャルジェ将軍の事にふっても、父とはしばらく会ってないと、にべもないオスカル。たいそう怒っている…。
とは言え、上部からの命令は絶対なのだ、オスカルは弱り切る。だが、アランはそんなオスカルを促している、命令は命令だと。要はそんな卑怯な手を使う貴族に対し、もう平民は泣き寝入りしないという自信があるということ。勝負の時が来るという彼の勘だ。

 民衆の希望だった三部会。だが、波乱の幕開きに民衆の不満はつのるばかり。
横暴な貴族に立ち向かうオスカルと兵士たちの努力も焼け石に水の状態。
貴族と民衆の板挟みとなったオスカル率いる衛兵隊はやむなく議場を閉鎖せざるをえない。
彼女の態度は理性的、そして身分差を感じさせないほど冷静で現代的。騎士道とか、貴族の身分の誇りというものよりむしろ彼女は非常に現代人的(確かにこれはフランス革命時代の物語なのだといえば変かも知れないが)。

 兵士たちも又、能力主義で、今では隊長が女であろうが貴族であろうが、関係ないらしい。
彼らは平民議員たちを必死で守ろうとするオスカルの姿を見て来たはずだし、平民の味方をする隊長の行動を評価しており、まず彼女に逆らう理由はない。

 ところがアランはこの頃、やたらオスカルに突っ掛かっている。かと言って彼女の指揮には逆らわないのだが、彼女を貴族と見なし、皮肉るのだ。
当然、彼はオスカルに対して不満はない。貴族全体に対する民衆の感情を代表して「報告」として言っているだけである。
これは何かというと、オスカルが貴族であり、これから栄える民衆の仲間ではないということなのだ。確かに彼女は民衆の味方にはなるだろう。アランたちも当然彼女をバックアップするだろう。
だが、虐げられて来た民衆の苦しみを彼女は体験してはいない。彼女が民衆の味方をしているのは理性によるものだ。よってオスカルの気持ちの中の事として、彼女自身が平民の仲間になることはドあつかましすぎて出来ないと思うのだ。

 オスカルにはこの後、ベルナールやロザリーと言った、平民側にいる彼女の理解者だけではなく、縁もゆかりもない平民たちとの直接対話の場面がある。そこでオスカルは「貴族」というだけで憎まれるのだ。それでなくともアランすら彼女に皮肉を投げかけているというのに(弁護するが…彼は特にオスカルを傷つける意図はないようだ)。

 何と、彼女は平民の敵として描かれているのだ。今まで自分たちの税金で贅沢な暮らしをしていた貴族の将校に、俺たちの苦しみがわかるのかと言われたら、残念ながら苦労を共有していないオスカルに返す言葉はない。
たとえ頭ではわかっていたとしても、体験がないという事実は決定的なのだ。民衆の痛みを共有していないオスカルは彼らの熱望の先頭には立てない。
そして、民衆を苦しめて来た「貴族」のひとりであるスカルに、彼らの熱望は代弁できるはずがない、これが厳しい現実である。
すると困った事に、オスカルは自由・平等・友愛の精神を掲げて民衆の先導ができなくなるのだ。当然、民衆の先頭に立って、かっこよく戦えるどころか、ただ、民衆の敵として沈黙するのみ。

 だが、彼女は権力維持のために武力すら辞さないという貴族には戻れない。そして平民の仲間にもなれないという、どちらにも付けない孤立した位置にいるのだ。では、となると、オスカルは何を信じて戦ったのかという疑問が湧いてくるが、それは後の回に語ることとする。

 翌20日。議場はフランス衛兵隊によって閉鎖された。抗議する平民議員たち。ロベスピエールもオスカルに抗議するが、彼女は個人の意志で門を開ける事ができない。
やがて国民議会の議員たちは国王や貴族たちへの怒りを胸に、やむなくジュー・ド・ポーム(球戯場)に集まり熱い誓いを交わすこととなる。アランの言う通り事態はおさまらず、国民議会の誕生となるのだ。憲法が制定され、確立するまでは決して解散はしないという決意のもと、平民議員たちは固く団結した。
球戯場のそとにまであふれてくる熱気がオスカルにも伝わって来たであろう。
この勢いを知らないのは貴族たちだけなのだ。どんなに押さえ付けても、虐げられて来た者たちは立ち上がってくる、と、アラン。

 23日。混乱した事態を一気に解決すべく、国王は議員全員を一堂に集め、議会を開くことになった。
この日、議場への入場を指揮するのは、ブイエ将軍の回し者で、陸軍のショワズイエ大佐。
ブイエ将軍は議員の入場の指揮をオスカルではなく陸軍にまかせたのだ。
それは一つだけ開いた扉から議員一人一人を入場させるというものだが、これも指示により特権階級議員を優先させており、平民議員は雨の中を待ち続けている。
異常に気づいたオスカルはショワズイエ大佐に抗議するが、彼は平民議員を初めからないがしろにするつもりなのだ。貴族・僧侶議員のみを正面玄関から入れて、平民議員は後回しにした上、裏口から入場させるという卑劣な手口だった。

だが雨の中を立ち尽くす平民議員はじっと表から入る為に濡れながら待っている。彼らは決して裏口からは入らないとかたく決意していた。そのためにはどんな侮辱にも耐えるのだと。
これにはさすがのオスカルもプッツン。度重なる貴族の横暴に対しついに怒りもあらわにショワズイエ大佐を背負い投げ一本。

すぐさま議場の扉を開けて、平民議員を早急に中に入れるように指示する。ましてや辺りを囲む民衆からは不満の声も上がり、暴動の恐れもあるのだ、ともっともな理由をつけてショワちゃんにはイヤミの反撃もしている。オスカルは自分の判断は正しいと感じているのだ。
ところで真っ先に扉を蹴破るアランたちをアラアラ〜と見送るアンドレ。…緊迫感がないのかのんびりしている……オイオイ君…。

 始まりからしてすんなりいかないその議場の中。国民議会の存在を恐れた王族や側近たちは王政の危機と称して国王をそそのかした。
優柔不断な国王は彼らの言いなりになる。国民議会を解散し、元の通り三部会に戻り、それぞれの議場で身分ごとに討議するようにと言い、議員に退場を命じた。
だが、国民議会は議場から動こうとしない。彼らは国王の命令を拒否することにしたのだ。そのまま平民議員たちは議場を占拠した。
それは直ちに謀反として、ブイエ将軍の元へ伝令が届いた。

 突然、兵と共にベルサイユ宮のブイエ将軍のもとに出頭を命じられたオスカル。
今は何よりも議会の警備が大事なはずなのだが。オスカルは部下を外に待機させ、単身、入って行く。何か不吉な予感を感じて、アランはアンドレに彼女の後を付いていくように指示する。多分、付いて行きたくてもオスカルとの関係に「勤務中」というけじめを持っていたであろうアンドレもここぞとばかりに促されるようにして、オスカルの後を追う。
オスカルに「何だ?」と怪訝そうに言われて、「一緒に…」と言葉を濁しつつ、供をするアンドレ。完全に尻に敷かれているぞ、君。

ここでも解るがオスカルとアンドレ、仕事中は完全に隊長と兵士。
私情を入れようとせずワザとアンドレを一兵士と見なして振る舞うところなど、全く隙がないオスカル。アンドレも同じく見守ることに徹してしまって、こんなにお互いが生真面目なら何もトキめくことは起きない。だけどラストで「アンドレ」と叫ぶオスカルには、ちょっと一兵士を呼ぶ声とは違う物を感じてしまった私。やはり心の中では頼りにしてるんだなと。アニメのオスカルはとことん可愛くないように見せるのが可愛いなーっと。…では本題へ。

 これまでのオスカルの反抗的な態度はブイエ将軍の目にも明らかだった。彼は、オスカルと彼女が率いる衛兵隊の、議場警備の任務を解くと言う。
軍の命令を破って、扉のカギを独断で開けた事は、本来ならば法廷にかけるほどの問題なのだ。オスカルは軍事法廷など恐れていないと言い返すが、ブイエ将軍はジャルジェ将軍との友情があるのでそれを聞き流そうとした。

いくら何でも貴族である以上、オスカルが平民にそこまで肩入れしているとは思わなかっただろう。だが、今の状況と軍の統制は大事である。彼女の気持ちを試す意味もあって、ブイエ将軍はオスカルと衛兵隊員に対し「議場警備をする代わりに議場を占拠している平民議員を排除せよ」と命じる。その為に流血の事態になっても構わないと、ブイエ将軍は言う。
 オスカルは即座に拒否。彼女が必死に守っているフランスの代表に対し銃は向けらない。まして議員たちは武器も持っていない。そんな彼らを武力で弾圧することは彼女の信条ではない。いきり立つオスカル。

 ブイエ将軍もさすがにそこまでは見過ごせず、その場でオスカルを反逆罪で逮捕。どうやらこの無茶な命令は彼女の気持ちを確かめるための罠とも取れるが、女に任せていたのが間違いだと言わんばかり…。
彼はそのまま部下にオスカルを見張らせ、雨の中、外で待機している彼女の部下アランたちに直接、平民議員の排除を命じるために出て行った。
アンドレは廊下でオスカルが出て来ない部屋の扉を見つめるのみ。

 オスカルは銃を向けられたまま、外のアランたちがどう動くか見たいと、窓際へ移動した。部下が心配でたまらないのだ。
外では案の定、衛兵隊員たちは平民議員の排除をブイエ将軍から直々に命令されるが、義理堅いアランはここでオスカル隊長を待っていると約束したからと動かない。
オスカル隊長以外の命令は聞けない。そのアランの一言で、B中隊はブイエ将軍の命令を拒否、その場で逮捕され、乱暴な扱いを受けながらアベイ牢獄へ連行される。

下手に動じれば見張りに弱みを見せてしまう。窓際にいたオスカルは、乱暴に連れて行かれるアランたち12名の身を案じながら愕然とした気持ちで見守っていた。
あんなにオスカルに反抗した兵士たちが、今は彼女に対して命がけで忠誠を守っているのだ。彼女の両肩に12人の命の責任がかかる。
彼らのために命をかける覚悟であろう。兵士たちを見つめるオスカルの瞳は必見。

 だが部屋に戻って来たブイエ将軍は、その12名を銃殺、オスカルは陸軍の特別房に拘置すると言う。
彼女は今回の件は自分への処分だけで十分で、アランたち12名の銃殺刑は間違っていると反論した。
それでも銃殺は見せしめだとするブイエ将軍に、オスカルはさらに会議場への武力介入も間違っていると言い切る。
それはフランス史上、許されざる汚点となると…。
彼女が確固とした信条を持っていることを示す、激しい抗議である。
暴力では何も解決しない。その事実は後の人間たちによって証明されるであろう、と。
だが、貴族の特権を当然とするブイエ将軍は国民議会派の居座りの方が汚点だと言い切り、二人の議論の接点は無い。

 さらに彼は国民議会を名乗っている平民議員の排除は、衛兵隊の代わりに、ジェローデル率いる近衛隊がやるとオスカルに告げて部屋を去る。
それを聞いて驚いたオスカルはじっとしていられず、議員を守るため、見張りを振り切って、出口のドアに向けて走った。
ジェローデルは元部下。この決定についてオスカルの心には色々な思いが巡ったであろう。

 彼女は見張りの者にすぐに取り押さえられたが、渾身の力を込めて「アンドレ!!」と呼んでいる。
ドアを蹴破り飛び込んで来たアンドレは、側近に取り押さえられたオスカルを見て逆上、すぐに彼女を救いブイエ将軍の部屋から逃げ出した。よく見ると、背負い投げの恨みをはらすために再登場していたショワちゃん、オスカルにひじ鉄を食らわされている。

 排除に手段を選ばないでよいというブイエ将軍の命を受けて近衛隊が議場に突入するというのなら、その前に何としてでも駆けつけて、流血を避けねばならない。…防ぐんだ、何としても!!
二人はベルサイユ宮を後にし、激しい雨の中、議場に向かって馬を急がせた。

 こうして見ていると、この二人ってば、つきあいが長すぎてホントに相棒になっちゃってるのよね…なんてのんきなことを言ってる場合じゃないですね。



2001.2.24.up