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第35話 オスカル、今、巣離れの時

(1789年6月23日〜6月30日)

 ついに民衆側へ傾いたオスカル。誰の目にも明らかな彼女の寝返り。
もし彼女がラ・ファイエット候のような自由主義貴族であったのなら議場で言論を戦わせることができただろう。だが王室に忠実を誓ったジャルジェ家の跡継ぎとして務めを果たしてきた軍人オスカルはれっきとした国王の軍隊所属。そして彼女が新しいフランスの為に尽くす道は、培われた「武力」のみ。

今、国王の命により軍隊は議員たちに対して不当な武力弾圧を加えはじめた。
それに対して立ち上がったオスカル。そして独立していこうとする彼女と、真っ向から対立する父との激突。そしてその間に割って入った彼女の求婚者。
嵐はどんどん激しくなっていく。

 オスカルよりも早く議場に到着したジェローデル率いる近衛隊隊員は、動こうとしない国民議会を謀反人と見なし、彼らに銃を向けた。
それに対して、国民議会に参加していたラ・ファイエット候などの一部の自由主義貴族たちが飛び出して来て、平民議員たちの盾になる。
が、しかし近衛連隊長のジェローデルは議員への発砲を許されているので、たとえ相手が貴族とは言え例外ではない。銃を彼らに向けてここから退くように最後通牒を突き付けた。
まさに一触即発のその時、オスカルが早馬で駆けつけて来て、対峙する彼らの間に割って入る。

 彼女は剣を抜くと両手を広げ、ジェローデルに向かって、武器を持たない平民議員を撃つのなら私の屍を越えてから行けと叫ぶ。…攻撃ではなく議員を守るための抗議の姿勢だ。
近衛隊はかつてオスカルが指揮を取った所。排除命令を受けた彼らは元の部下たちなのだ。オスカルとて戦いたくはない。無駄な武力衝突でわざわざ加害者と被害者を作りたくもないだろう。彼女はこの衝突を避けるべく体を張って抗議する。
その命がけの説得に、最初は意志も固く乗り込んできたジェローデルもついに剣を収め兵を引いた。

 前の隊長を撃つことは出来ない。そして愛する人の前で、武器もない民衆に対して発砲するなどという卑怯者にはなれない。
今はオスカルに変わり、近衛隊の隊長という責任ある立場のジェローデル。気持ちではオスカルの後任として恥じない指揮ぶりを見せなければならない時だが、きっと丸腰の平民に対して剣を振り上げることは騎士として恥だと自分に言い聞かせたであろう。
彼はいつか平民議員たちが武器を取る日までは待つとオスカルに約束した。

だがジェローデルにとってはそれだけでは無かった。
もしも我が身が謀反人となっても、それほどにもオスカルの命が大事なのだと身をもって示したのである。彼もオスカルを深く愛していた。オスカルを見つめるジェローデルの瞳は、アンドレと同じように深く穏やかだ。
彼は降りしきる雨の中を、オスカルに敬意を表して一度だけ手を挙げた後、去って行った。

 見送るオスカルは彼の礼儀正しい立派な態度に感謝する。ジェローデルは元の部下というだけではない、男として、彼女の元求婚者として恥じない行動を取ったのだ。オスカルはそんなジェローデルの気持ちを受け取っている。

 しかし議場を占拠した国民議会の排除を拒否し、なおかつ近衛隊による排除も妨害したオスカルに対し、貴族たちの怒りは父ジャルジェ将軍に向けられた。
ジャルジェ将軍は国王の立ち会いの中、一連のオスカルの行いについて他の将軍たちから非難されていた。(しかしこの会議のメンバーは本当はどういう顔ぶれなのだろう)さすがのブイエ将軍も今回の件はかばい切れない。

別の将軍はジャルジェ家の取り潰しと領地の没収、オスカルの国外追放を訴えた。そして肝心の国王は王妃に相談したいと、オスカルの処分を留保。
だがジャルジェ将軍は皆の前で、謀反を起こしたオスカルをこの手で処分すると決意した。
娘への腹立ちもさることながら、無理やり彼女を男に仕立てた自分自身にも腹が立ったであろう。これはその事への手痛い罰やら知れぬ…という苦悩が顔に書いてある。

 その夜、屋敷へ帰っていたオスカルは父の部屋へ呼ばれた。
ジャルジェは、謀反人である娘を成敗しようとしたのだ。
王家に忠誠を誓ったジャルジェ家から謀反人を出す訳にはいかぬ、と父。
女でありながら、今では軍人として立派に育ったオスカル。だが、急激に移り変わる時代の中で、父娘のそれぞれの信念は離れて行ってしまった。

何があっても王家を守り王家に尽くすための武力だという父の在り方。そしてもう一つは、弱者を守ってこその武力だというオスカルの在り方。
父に似て意志の固い娘。そんな二人が真っ向から対立し、お互い自分の信じるものを守るために、今、父は娘を成敗しなければならなくなった。

 ここで自分が成敗されてアベイ牢獄に捕まっている12人が助かるのなら喜んで命を投げ出すつもりだと言うオスカル。だがそうはいくはずはない、ならばここで死ぬわけにはまいりませんと、彼女は落ち着いて自分の考えを父に言った。
オスカルは自分自身が決して間違った行動を取ったとは思ってはいない。そしてこの固い決意を揺るがすものは何もない。

だが父はそんなオスカルを斬り、自分も自害すると言う。彼の手は震えている。
ならばなおさら父の成敗は受けられないと、オスカル。
涙を浮かべる二人のやり取りはいかにも情がこもっていて、愛情と、お互いに譲れないそれぞれの信念とが葛藤している。

 オスカルは動かない。それが父に見せる彼女の意志の固さと、彼を苦しめたことへの答えなのだ。
だが、ジャルジェ将軍はそれでも剣を振り上げる。

 その時、様子を見に来たアンドレが部屋に飛び込み、将軍の振り上げた腕を押さえた。外は突然嵐のように雨が降りはじめ、突然の落雷により屋敷は揺れ、部屋の明かりは全てかき消される。
アンドレはオスカルを斬らせまいとして、力任せに将軍を窓際へ追いやった。既に力ではアンドレには太刀打ち出来ないジャルジェ将軍。

松の廊下よろしくもみあう二人。そしていきなりアンドレは手に銃を握り締め、彼女を斬らせはしない、それでもだめなら将軍を撃ち、オスカルを連れて逃げますと言い出す(駆け落ちの意味)。
幼い頃から屋敷に引き取り、その成長を見守って来た平民の青年が今、真剣なまなざしで、恩を受けた将軍に対して命がけの告白(オスカルをくれ)をしたのだ。銃を突き付けられてジャルジェ将軍(娘の父)は唖然となった。彼は身分が違う平民の男の言葉に少なからずうろたえたのだ。

それでもアンドレは続けて、身分とはそもそも一体何なのか、人は皆平等であるはずだと言う。
だが父はすぐに平静を取り戻し、貴族は平民とは結婚出来ないと、自分に言い聞かせるように怒鳴った。
それでもさらにアンドレはひるまず、人を愛する心は自由なのだと言い切る。
この時、オスカルはただ二人のやり取りに黙って立ち尽くしていた。

 今、二人の男はオスカルをめぐって対峙していた。
娘の父親と、娘の恋人。この互いに譲れない男同士の対立。女のオスカルには割って入る隙もなかった。(そうアニメベルばらは三角関係がやたら多い。どこでも三人組が目立つ。)
そして、既にアンドレの言葉を否定出来ないオスカル自身がそこにいた。違いますと言って、二人の間に割って入ることすらできない。彼の言葉はすなわちオスカルの言葉なのだ。男たちの対立をよそに、彼女の心は、既にアンドレを選んでいたであろう。父に勝ち目はない。

それと、反面こんな時、女の心のどこかに私は男の所有物じゃないとさめた目があるような気がする。
奪われるのではなく、私は私の意志で男を選ぶのだと。この対立は求婚者と、娘の父による勝手な奪い合いなのだ、私への求婚ではないと。

 結局、オスカルの意志という次元以外での「男同士」の対立。最後は彼らの勝負ではなくオスカルの意志が全てを決定するという事実を、こういう場合オスカルが把握していれば彼女はこの対立に割って入り干渉することもないであろう。彼らの勝負の結果はどあうれ、オスカルの進路を拘束するものではない。あくまで男たちの儀式なのだ。
とは言え、命をかけたアンドレの背中を見つめているオスカルは、彼の一途な気持ちに感動している。やはり自分を巡って男たちが争うのは女冥利に尽きる。

 ところで父は怒りが沸々と込み上げてきて、ついにアンドレを殴り倒す。(お前なんぞに娘はやらぬ!と言う意志表示)
いつしか自分の知らぬ間に引かれ合っていた二人に、彼は怒りを禁じ得なかった。ジャルジェ将軍は二人とも許せないとつぶやき、剣を再び振り上げた。
すると、アンドレは銃を置くと、またしても、かばうようにしてオスカルの前に座り込んだ。
アンドレは死をも恐れぬ目付きでジャルジェに言う。
まず自分から成敗して欲しいと。一瞬とは言え、私があとでは愛する人の死を見ることになる。それはあまりにも悲しいと…。彼はオスカルの盾であろうとしているのだ。

反対にそこまで真剣に言われたら、娘の父は余計腹立たしくなる。
 さっきまで家の名誉の事で頭に血が上り、オスカルと対立していたはずのジャルジェ将軍。それがアンドレのせいで、オスカルの謀反のことはどこかへ吹っ飛び、代わりに今、娘をさらいにきた男に腹を立てて対立している。
父の怒りの矛先がオスカルからアンドレに向き変わったのだ。これは下心がなかったとは言えアンドレの作戦勝ちである。ジャルジェのような一本気な人の弱点は一度に二つのことを考えられないことだ。父は今、何が原因で自分が怒っているのかよくわからなくなっている。

 本来、謀反を起こしたオスカルを成敗するのにアンドレは何ら関係ない。彼はただ、彼女を助けたい一心で割り込んだだけなのだ。ジャルジェ将軍には何が何でも彼の命を奪う理由はない。二人は大事な子供なのだ。彼を斬った次はオスカルの番、と割り切ってホイホイと成敗できるはずもない。むしろこの二人が駆け落ちでもしてくれたら、二人とも斬らずに済むのだ。だがしかし、身分違いの結婚など、父は想像もしたことがない。平民の男が大貴族の娘を連れて逃げる。その想像を絶する恐ろしい光景を目に浮かべただけでめまいがしそうだ。ジャルジェは混乱していた。

 オスカルが結婚話に乗らなかったのはこの男を愛していたためだったのか。
ジャルジェ将軍の胸に次第に複雑な感情か湧き出てきたであろう。
ここまで真剣に我が娘を愛し、守ろうとする男が他にいるだろうか。それは喜ばしいことだった。アンドレは子供の頃からその成長を見てきた、言わば何もかも知り尽くした家族の一員のようなものだ。だが身分が違う。貴族と平民は結婚できないのだ。
と、それどころではない。今、オスカルを成敗しなくてはジャルジェ家の威信に関わる。

 …では、結婚とは?身分とは?
アンドレが突き付けて来た現実の前で、制度の枠の中で生きて来た父は、答えが出せない。
だが、制度の枠からはみ出した者は処分すればよい、などと簡単に片付くものでもない。
ジャルジェに振り上げた剣を下ろす決意がつかないまま、雷鳴が轟いていた。
結果的にジャルジェ将軍は怒りが分散してしまっているので、多分どっちみち二人は助かると思うけど、意地もあるのでなかなか剣をしまえない父。明かりが消えた部屋に燭台を運んで来たばあやは、この騒動になすすべもなく泣き伏してしまった。

 その時、ベルサイユ宮殿から早馬で伝令があり、アントワネットの計らいでオスカルとジャルジェ家に対して一切のお咎めはなしという知らせが届いた。
張り詰めていた緊張感がやっと薄らぐ。
「命拾いをしおって!この、バカ者めが!」
ジャルジェ将軍はオスカルに怒鳴りつつ感極まった。
それは次第に自分から離れて飛び立って行く娘に対する父親の気持ちの全てでもあった。

もしオスカルが貴族の視点のままでいたなら、決して民衆の味方にはならなかったであろう。だが、彼女の目は常に真実を見極めようとしていた。そして今、弱者の上にあぐらをかいている貴族の傲慢さを知ってしまった。
周囲の出来事など見て見ぬ振りをして、馬車馬のように決められた道を真っすぐに前だけを見て、王室に忠誠を貫く生き方も彼女には出来たのだ。かつて父は民衆の貧しさに憤ったオスカルに「お前はその様な事は考えなくてよい、お前は貴族で近衛連隊長だ」と忠告している。そうやって生きた方がどれだけ楽で、また評価も高かっただろう。

だがオスカルはそんなものを捨てて、自ら民衆の側へ傾いて行ってしまった。むざむざ苦しい道を選んでしまった娘。父はそんな娘を許し、認めたのである。

 そして、アンドレも身分違いの女性を愛してしまった。
まさに父にすれば「バカ者」であろう。それでも父は結局、謀反を起こした娘も、身分不相応の求婚者アンドレも許してしまったのだ。(娘はくれてやる)
父にすれば心配ばかりかける娘。それに娘の女としての幸せを願ってはいたが、その相手はよもや「燈台下暗し」の平民の男。もう彼は腹立たしいのかメデタイのかわからなくなっている。

一方、オスカルは傍らにいたアンドレと共に、そんな父の声をただ無言で受け止めている。
彼女にすれば父に対して、迷惑をかけた上、離れて行くことが申し訳ないという気持ち。
そして謀反者と見なされても仕方がない彼女を助け、変わらぬ友情を示して恩情をかけてくれたアントワネットに対して、オスカルは有り難いという以上の思いを感じている。

オスカルは自分の力で窮地を脱したのではなく、彼女を愛してくれた人々によって支えられ、助けてもらっているのだ。彼女はそれらの人々に深く感謝しただろう(むしろ元々謙虚な彼女は自分の無力さはあまり感じていない様子)。
しかし皮肉な事に、自分の信念とは言えそれら助けてくれた人々に対して、彼女はもうすぐ反旗をひるがえすのだ。オスカルにはそれが予測できるだけに、今回のアントワネットの友人を思う気持ちを推し量ると、素直には喜べないのである。

だが、今は銃殺刑を受けた12人の部下を助けなければならない。彼女の全神経はその事に向いていたはず。
…ところでやはりこの二人、このチャンスに恋愛感情を盛り上げるより、今の状況を打開するために相棒状態になっている。

 この一連の騒動は、アンドレがオスカルを父の刃から守ったというよりも、結果としてジャルジェ父に対してアンドレが彼女との結婚の許可をもらったという部分の方が大きい。
彼は天守閣を落とす前に、きっちり城壁を落としたのである。オスカルが感極まらなかったのは、アランたちの事を案じていたこともあるが、父と恋人のやり取りがあくまで男同士の戦いになってしまって、第三者となったオスカルからわざわざ告白するに至らず、「しそびれた」感がある。
キーポイントはオスカルの「自立」。彼女の行動は彼女がそうしようとしたときに起きる。

 と言うことで、オスカルとアンドレは前以て相談こそしていないけど、気持ちの上ではもうお互いのことを恋人として認め合っているのだと言える。とすればこの二人はアランのことさえなければ、何かオスカルから言い出しやすいきっかけがあれば、どうにかなっていただろう(しかしこの2階のホールの手摺りは低すぎる)。

 翌日6月24日…と思ったが、アベイ牢獄の看取のセリフで26日とわかる。
アベイ牢獄のアランたちは自分たちの軍籍を理由に裁判を受けさせてもらえると思っていたのに、看取は彼らに5日後の7月1日午前8時ルイ15世広場で銃殺と告げられ、愕然とする。軍事法廷はアランたちを抜いて開かれたという。ひどい話である。
余談だが、ひざを抱えてクスクス笑っているラサールがやたら可愛い。衛兵隊ではアランとアンドレの次に目立っているのが彼である。

 だがその間、オスカルが兵士たちのことで奔走している間も議会は動いている。
アランたちが捕らえられた23日には僧侶議員の大多数が国民議会に合流し、25日にはオルレアン公に率いられた47名の貴族議員も国民議会に合流している。そしてパリでも平民議員を選出した選挙人約400人が市役所の一室を根拠地とし、議員たちと連絡を取りつつ集会を開き、一種の自治体を形成していた。
もう国王の権威は絶対ではない。国民議会はそれらの応援を得て活気づいた。
そして王室もそれに対抗して、26日には地方の軍隊にパリへの進軍命令を発している。

 その頃(日時不詳)オスカルは質素な身なりをして、単身、パリのベルナールの所へ行き、アランたちの救出作戦を打ち明けている。
彼の演説で民衆を扇動し、アベイ牢獄を包囲して欲しいと頼むのだ。
パリの治安に責任のあるオスカルは、民衆が牢獄を包囲することにより、暴動の恐れがあるとの理由でアランたちを釈放するよう国王に要請できるとふんだ。最も危険の少ない方法を選んだのだ。
そのためにアベイ牢獄からアランたちを救う演説を引き受けるベルナール。
もし失敗すれば「使いっぱしりにでも何にでもなる」と、オスカル。部下のためには地位も名誉もプライドも捨てると言うのだ。これは下手にかっこいい事を言うより現実的。

 ところでアンドレは?と言うと、馬車で行くんじゃないのでどうやら留守番。目立たぬようにオスカルは単独行動。でも演説の当日、計画の成功をオスカルに知らせていた所を見ると、アンドレは前もってこの計画を知っていたのは間違いない。ちょっと前に屋敷で大騒動を巻き起こした二人が、恋愛感情をぐっとおさえ、どんな会話をやりとりしたのだろうかとあれこれ想像してみるのもオタクの楽しみ?

 また、ベルナールは事情を師匠のロべスピエールに話し、賛成を得ている。
ロベスピエールの頭の中には理想世界がある。フランス国家を理想の世界にするため、自分が正しいと信じる理論を実践したがっているのだ。その為に何事もあせらずコツコツと計算通りに運び、自分なりに手段を考え、改革を着実に進めて行くつもりなのだ。

だがサン・ジュストはもっと過激な方法がいいと不満を言う。世の中の変化を早急に要求する彼。どんな手段をも選ばないという彼もまた、自分なりの理想のためにテロという手段を取っている。
大きな理想のためには妥協を許さない、それはロベスピエールも同じであろう。サン・ジュストの言うことは、ロベスピエールの心の奥底にある負の部分である。一見、反対のように見える彼らのやり取りは、悲しいかな大きな目的を掲げたときに必ずつきまとう、表と裏の部分である。平和を勝ち取るために戦争があるように、または誰かを愛するためにどこかで憎しみがあるように。

そして人々が理想の為に実践する手段に欠陥がある場合、それらはやがて見捨てられ敗れ去るのだ。ルソーは問題を投げかけている。「人をあるがままの存在とし、法律も当然あるべきものと仮定した場合、人間社会に果たして確実な政治上の法則はあるのか」と。

 翌27日(?)ベルナールの演説がパレ・ロワイヤル広場であるということで、オスカルは兵士を連れて警備に向かう。作戦を知らない衛兵隊士はその演説がアランたちを助けるものと知り、喜ぶ。
だがサン・ジュストはこの集会をつぶすために警備隊長のオスカルを殺そうと狙っていた。
彼女を殺せば集会も禁止になり、怒った市民が暴動を起こすと彼は考えたのだ。

 予期せぬテロリストが彼女を襲う。
ベルナールが市民に呼びかけて、アベイ牢獄に扇動している間、オスカルは仮面をつけたサン・ジュストに馬から引きずり下ろされ、二人は下水道で戦うはめに。
ここのところ忙しすぎて自分になんか構っていられなかっただろうけれど、オスカルはどうやら体が思うように動かなかったのであろう。病は進行しているのだ。サン・ジュストを狙った剣がうまく飛ばない。肩で大きく息をするオスカル、これはかなり痛々しい。それでもサン・ジュストは彼女の敵ではない。

 そのままオスカルはサン・ジュストを取り逃がしてしまったが、消えたオスカルを探していたアンドレは、演説が成功し市民がぞくぞくとアベイに集まっていることを彼女に告げる。体が弱り苦しそうなオスカル、だがその顔は輝いている。

 その頃ベルサイユでは、この件についてどう対処すべきか親臨会議が開かれていた。暴動を恐れて兵士を釈放すべきだと言う者、反対に、平民たちがつけあがることを恐れて12名の釈放に反対するブイエ将軍。
国王は自分では決断できず悩む。だが、そこへ現れたアントワネットは、パリを火の海にできないと、兵士の釈放を命じる。
彼女は平民の暴動などおそれてはいなかったが、ただ美しいパリが血の海になることがいやだったのだ。

 又この頃、地方からパリに向けてすでに3万を越す国王軍が集結していた。だが、これはパリの暴動の防止ではなく、国民議会を威圧するというのが真の目的であろう。アントワネットには王室の権力維持の為なら武力行使という手段も正しいのだ。彼女はいつまでも王室の権威は絶対だとかたくなに信じている。
また、国王軍のパリ進軍を受けて29日には市民軍の動員が計画され、ブルジョアがその主導権を握った。だが、彼らにはまだ武器はない。

 6月30日夕刻、パリ市民により、アランたちは釈放される。
オスカルはアランをはじめ、12名の兵士が釈放されて出てくるのをアベイ牢獄の前で待っていた。
アランたちが助かったのは誰の力でもない、すべて民衆の力だと、オスカルはアランに淡々と言った。いつものような氷の司令官の顔になっている。
だがアランは相変わらずのぶっきらぼうな態度ながら、そんなオスカルの情勢把握の正確さに感心している。アランは助かったのはオスカルの裏工作があったと感じたのだろうか、彼は手を差し出し、オスカルとかたく握手をした。

 この武器も持たない民衆による団結が兵士の命を救い出した記念すべき日。
当時フランスは国境もあいまいで、パリには異国人もいた。
だが一つの民族としてまとまっていなかった彼らが、純粋な気持ちで力を合わせ、権力に対抗して勝利したのだ。
不当な理由で捕らえられた兵士たちを救おうとして、(街角で語られている自由平等友愛という神の意志の元、)人々が初めて国民意識を持ったのである。

 オスカルはどんな気持ちでその場にいたのだろうか。彼女の顔に笑顔はない。それは嬉しさを隠した司令官の顔だったのか。それともどんなに崇高な理念も飢えや恨みも陰謀も全て飲み込んでいくような時代の急激な流れと、誰にも止められないほどに新しい時代を熱望する民衆による、暴走寸前の、恐ろしいまでの底力を感じたのだろうか。
だが、オスカルはこの時代の大きなうねりの中で、自分の道を進むしかないのだ。

※この回に限らず解説の中には、アニメの物語中に存在しない歴史的背景も書いてあります。それは一般的な歴史解釈によるものです。ただし、私はフランス革命当時に生きてなかったので、本当のことは知りません!?(^^)



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