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第38話 運命の扉の前で(普通の解説)

(7月13日早朝から夕暮れまで)


「従う」発言のおかげで、38話のその他の場面についての独り言を語るエネルギーが消耗してしまったかも知れない。
実のところ、従う発言はごく冒頭の事であり、あくまで兵士たちと共に戦う決意をした場面に過ぎない。
その後は革命に突入していく戦闘シーンへと続き、ついに物語も最後のクライマックスとなっているのが今回の本題である。

兵士たちに結婚宣言をし、自分のこれからの行動を語り、兵士たちと意志を通い合わせた冒頭の静かな幕開け。
家族を、仲間を、弱い人たちを守りたい!そのために戦いたい!と、兵士たちに自分の本当の気持ちを素直に伝えたオスカル。
彼女の気持ちは兵士たちに届き、彼らとの固い信頼が芽生え、そしてアンドレの妻になったことを伝えたことにより仲間から祝福を受けるのだ。
実際、この場面でアランの受け答えを見たところ、オスカルが「従う」と言った言葉そのものには全然反応していない。

どちらかというと、オスカルが仲間になってくれるのは有り難い、今まで通りの隊の結束がそのまま今後の戦いにも継続できる、という感じである。
もしかして、今よく言う「男脳」としてのアランの反応は、彼女の言葉の中身ではなく、オスカルが今後、自分たちにどう関わっていくかを見極めようとしているのかも知れない。

余談だが、この「男脳」「女脳」それぞれから見た解釈などを書き出してみると面白いかも知れない。「従う」発言が女脳を刺激したとしたら、別の場面で「男脳」を刺激しているかもしれない。その反応の違いが解れば、男女別の感じ方捉え方の違いも解り、もっと作品を味わえるのではないかと思う。

その静けさに包まれたささやかな幸せと、兵士たちの望む遠い未来への希望。
衛兵隊は希望の光が射し込んだような夜明けを迎えるのだが、実は彼らの決意は壮絶なものであり、民衆の盾となり命を落とすかも知れない…という悲壮なものであったのだということが、今回のお話を見て行くに連れ徐々にわかってくるのだ。

冒頭の場面では、兵士たちの話を黙って聞いていたダグー大佐の粋な計らいも印象的。
彼はオスカルと同じ貴族なのだが、彼は彼なりに貴族として生きる道を選んだのだ。
オスカルがもし、あの場で兵士たちを興奮させるような演説をしていたら、ひょっとしてダクー大佐はどう弁解しても命はなかったかも知れない。いかにオスカルの語り口調が冷静で、説得力があったのかをあったかを物語っている。
人の行く道は自由であり、たとえ明日には敵味方に分かれようとも、今この場においてはお互いを尊重して袂を分かって去っていくのだ。

さて、チュイルリー広場で発砲が起こり、ついに革命の火蓋が気って落とされたと伝令から聞かされたオスカル一行。
彼女の最初の裏切り行為は、不気味なほど静かに登場し、広場を占拠する騎兵連隊を威圧して無血で撤退させることだった。このあたりの氷のように冷たいオスカルのセリフがいかにも彼女らしい。
そしそてオスカルが何の感情も見せずに階級章をポトリと落とすさまも、いかにも冷静な彼女らしい。

さて、広場は奪回したものの、まだまだ戦いの準備はこれからである。
ことに民衆は満足に武器もなく、増して武装して戦うことも不得手。
ただ、もう虐げられた生活に我慢が出来ず、怒りと情熱を武器に立ち上がった彼ら。

オスカルにしてもこれからどうやって民衆と共に戦えばいいのか?どうやって民衆にとけ込んだらいいのか?と思案する間もなく……今回の主役とも言うべき彼らは、オスカル率いる元衛兵隊すらも最初は信用しない。
兵士たちの今朝の決死の決意すら、彼らに理解してもらえなかったのである。
このあたりのすんなりいかない様子は、いかにも現実的で厳しい。

ここでベルナールの登場はオスカルの人脈あってこその助け船だった。
またアランに剣を託すオスカルのさりげない行動が、副長としての彼への絶大な信頼を感じさせるし(アンドレに剣を託さないのも、いかにもアンドレへの気遣いが見えるところ)、同時に兵士たちを守るためにオスカルが民衆に飛び込んでいった必死の説得も見所である。
そして民衆はオスカルの態度にひるみ、さらに彼らの指導者であるベルナールの態度に、元衛兵隊への態度も軟化させるのだ。

誰が味方か敵なのか、人の世には裏切りがあるかと思えば、信頼が芽生える瞬間もある。増してベルナールはアラン釈放の折りにオスカルの作戦に荷担し、彼女がいかに知恵者かを知っている。また、アンドレをよく知る彼にとってオスカルが信用のおける人物であることも疑う余地はなかったであろう。
そしてこの瞬間より、様々な階級・様々な考え・様々な組織が入り乱れ、混乱へと突入していくのだ。

オスカルたちはやっと民衆の信頼を得、戦闘準備すらおぼつかない彼らのバリケード作りのための時間稼ぎをするために、自らおとりとなり奇襲作戦を繰り返し、パリの町を駆け回る。
結構地味な作戦だが、敵の目を分散させ、自分たち(民衆)の陣地をまず確保しなければ、今後戦うことすら出来ないのだ。

だがその作戦を取らざるを得なかった事こそ、敵の軍勢があまりにも多いという事実であり、元衛兵隊の兵士たちはまぎれもなく民衆の盾となって次々と壮絶な死を遂げていくのである。
また、アンドレの目がさらに悪化し、光を感じることも不自由になってしまう。アランが気付いたものの、これは戦闘の指揮をするオスカルに負担をかけないように知らせていないように見受けられる。

さて、物語中盤から都度都度登場しているラサール・ドレッセル。彼はアニメでのオリジナルキャラなのだが、男臭い、ゴツイ、とあまり評判の良くないアニメの衛兵隊の中で、普通の人&小市民代表として気の弱い男として描かれている。なのに他の隊員に比べてセリフも多いしエピソードも多い。

気が弱くておどおどしているはずの彼が今回、敵陣に単身突入して壮絶な死を遂げるのだ。
地味で目立たないはずの彼も、革命という時代の節目に熱い気持ちで未来を信じている。
実はキレるとこわい男というか、本当は自分が隊のために・人のために何か役立ちたかったのではないかと思われる。一見無謀な敵陣突入の裏にある彼の情熱…本当の勇気と優しさをかいま見る。

今までの彼にまつわるエピソード。
銃を売って生活費に充てたり、それをオスカルに問いつめられて口ごもる気の弱さ、釈放されてアランを見て号泣する人間臭さ、隊長を辞めたというオスカルを「隊長!」と真っ先に呼んだ信頼などなど、今までの伏線がこの結果のためなのかと改めて感じさせてくれる。
そして同時に彼の死は、残った隊員たちに自分たちの末路を予見させるという、非情な場面なのである。

やがてはおとりにすらならないほどに隊員たちは数を減らしていく。朝の希望はほぼ絶望へと変わっていき、追いつめられていく隊員たち。
民衆の盾となることは、多数の命を犠牲にするという事実なのである。

もちろん死んでいった兵士たちは自らの死を覚悟していたに違いなく、決してオスカルのせいではないのだが、戦いの非情さというものを身にしみて感じているオスカルをはじめ生き残った兵士全員に重圧感がのしかかる。
兵士たちは自分の意志で戦い散っていった。当然の結果と言えばそうなのだが、そう簡単に割り切れるものではない。死者に対して深く責任を感じ、敵陣突破をしながらベルナールの元へ帰ることを命じるのをしばしためらうオスカル。

ここでアランの言ったことは、その場にいた兵士全体の代弁なのである。あまり何事も全て背負い込むなとオスカルにさりげなく伝えるアランの気配りが嬉しい。
みんなオスカルの指揮を信じている。ためらわずに命じてくれと言わんばかりに。

そしてこの時点でアンドレの目の悪化をただ一人知っているであろうアランは、アンドレにさりげなく声をかけている。
ここでアンドレの同意を得て橋のたもとから出ていくのだが、アンドレも自らの意志でベルナールの元へ帰ることを決意した以上、今から彼に襲いかかる不幸は誰の責任でもないと言うこと。
このさりげない会話が運命を大きく左右してしまうことなど誰も知る由ではなかったのである。



2003.2.19.up