×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


     アニメ版 ベルサイユのばら 徹底解説>HOME

第38話 運命の扉の前で

(7月13日早朝から夕暮れまで)


 1789年7月13日の朝が間もなく明ける。
夜明け前、衛兵隊に到着したオスカルとアンドレは兵舎に向かい、まんじりともせずにいたアランたちを回りに集めた。

兵士たちは黙ってオスカルの言葉を聞こうとしている。アンドレも彼女の後ろで沈黙している。
兵士たちは貴族であるオスカルの気持ちが知りたかったのだ。また、オスカルもそのことを話さねばならないと思っていた。
その日、7月13日は武装した民衆の鎮圧をするために、パリのチュイルリー広場への出動が命じられている。…それは民衆への発砲の可能性が高い。

オスカルは語り始める。我がB中隊は午前8時、パリのチュイルリー広場へ進撃すると。目的は、武装した民衆への牽制であるが、暴動となった場合は民衆に発砲。これを鎮圧せねばならない…。
オスカルはそこまで言うと、入り口のドアを振り返った。

そこにはダグー大佐が立っている。ダグーはオスカルに敬礼し、そのまま促した。
オスカルは続ける。民衆の中にはおそらく…諸君の親か兄弟がいることと思う…。たとえ私が発砲を命じても君たちは引き金を引かないだろう。それが当然だと思う、と。

朝日が地平線から昇って来た。7月13日の夜明けだ。
オスカルは静まり返った隊員たちに語り続ける。
「私の考えを言おう。いや私は、自分の取るべき道を述べる」
彼女は隊長を辞めるのだと言う。

それは私の愛する人、信ずる人が、民衆に対し、発砲しないと思うからだ…。私はその人に従おうと思う…。その人が民衆と共に戦うというのなら私は戦う。諸君…私はアンドレ・グランディエの妻となった…私は夫の信ずる道を共に歩く妻になりたい、と。
アンドレは彼女の言葉の一つ一つをかみしめるように聞いていた。

オスカルははっきりと自信を持って、彼の妻である事を仲間の前で報告したのだ。こんなセリフ普通なら、こっ恥ずかしくて言えないものだ。
だが、オスカルの言葉を皆、黙って聞いている。(むしろ、唖然として返す言葉も出なくて、固まってしまっだけかも知れないが、それはさておき…)

「オスカル」
アンドレは思わず彼女の名を呼んだ。

オスカルは椅子から立ち上がり、後ろに立っていたアンドレに向き直った。
「アンドレ、命じてくれ、アンドレの行く道は私の信ずる道だ」
オスカルはこれまで自分に与えられた特権を全て捨て、今、名もない貧しい民衆と、一人の男を選んだ。

 自分が原因でアンドレを危険な目にあわせたこと、愛されていることに気づかず彼を苦しめたこと。オスカルはそれをつぐなっても余りあると感じている。
そして彼が、本来ならひとりの平民として待ち望んでいたであろう身分制度への反発と自由への戦い。彼はオスカルのそばに居ることで、その熱い思いを犠牲にしていたのかもしれない。それを、情熱より女を選んだセコい男と笑うなかれ。アンドレにとって、たとえ新しい世界が来ようとも、そばにオスカルがいなければ何の意味もないのだ。

オスカルはアンドレのそんな気持ちを推し量る。彼女が従おうとしたのは、アンドレが望んだであろう新しい時代への戦い。それはオスカルが感じた身分制度への怒りと同じものなのだ。
二人は今や身分を越えて対等な立場となった。もう、どちらかのために、どちらかが黙って耐えることがあってはおかしい。そして、彼女が公然と部下の前で夫を立てたのは、アンドレが長い間耐えて来た思いに対するオスカルのせめてもの罪ほろぼしでもある。そして、アンドレが彼女に与え続けた愛情への感謝。むしろ彼女に全てを与えて尽くそうとした男に「従う」だけでもまだ足りないような気がする。

又、同じ目的、同じ気持ちを互いが共有できる…この場合、戦闘になるかも知れないという悲壮な決意ながら…共に歩んで行ける二人の時間をかみしめるオスカル。

 隊長を辞める必要なんかねえよ!と、アランがアンドレの代わりに口を開いた。当然のことながら、彼らは戦いになれば革命に身を投じるつもりだったのだ。
だがオスカルの考えを聞いて、アランは安心した。彼女の心の中に、民衆の為に戦う静かな闘志が燃えているのが、アランのような勘の良い男にはピンとくるのだ。バラバラで戦うよりそのほうがずっと力になる。ましてや、オスカルの指揮官としての能力は高い。民衆は戦いにかけては素人だ。軍隊相手にまともに戦えはしまい。これはありがてえ!

アランたちはオスカルの指揮のもとで市民と共に戦うことを約束した。
アンドレは黙っていたが、ほぼ同じ考えだったのだろう。

「アンドレ…」
それでもアンドレを立てて、彼の言うことに徹底的に従おうとするオスカルは彼を見つめた。残念ながらアランが何を言おうと、今は二人だけの世界なのである。

「アランの言う通りだよ、オスカル」
アンドレは彼女に言った。
オスカルの顔に戦いへの固い決意の意志が浮かぶ。
「隊長!」それは意外にもあの内気なラサールがオスカルに対して大きな声で発した言葉である。そしてそのほかの兵士たちも彼女に向かって、力強く隊長と呼ぶ。
兵士たちはオスカルをあらためて隊長として選んだのだ。彼女が上司で貴族だからではなく、本当に必要とされての再選だった。

アランは兵士を代表して手を差し出してオスカルと固く握手し、さらに二人の結婚を祝福した。
アンドレとオスカルは目を伏せてはにかんだ。やはり祝福されると幾分、恥ずかしいものである。隊員たちも笑った。…どちらかと言えばスケベ笑いだが。

これまでのアンドレの一途な気持ちを知っているアランだった。
目の前に戦いが迫った今、大事なものをようやく見つけた二人に、彼は心の中で言葉以上の祝福を送った。世話好きのアラン、そのかいがあったというもの。だがその心のどこかで、アンドレを非常に羨ましいと思ったのかも知れない。

 ダグー大佐は相変わらずドアの所に立っていた。
彼は貴族である。オスカルたちとは行動をともにすることはできないはずだ。
オスカルは今の話を連帯本部に報告するもしないもあなたの自由だと言う。
ダグー大佐はいつもの慇懃な態度で、報告するつもりだと答えた。
だが彼は、今日一日、無断で休暇を取ることにするとも言った。そして、オスカルたちの民衆への寝返りを報告するのは明日以降になるだろうと。

いまさら貴族をやめられない彼にとって、それがオスカルや隊員たちに対する精一杯の思いやりだった。彼はオスカル隊長の体を気遣い、敬礼をし、帰って行った。
石頭の堅物だと思われていたダグー大佐だったが、最後になって男を上げた。

 日は昇った。
隊員たちは全員、銃を取り、勢いよくオスカルの元に集まった。
彼らは騎乗して、練兵場に整列した。彼らのまなざしは決意にあふれていた。
ついにこの日が来てしまった。そう、時代の流れは誰にも止められはしない。
虐げられた民衆の怒りは誰にも止められはしないのだ。
今となればこの日は来るべくして来たと言えよう。

だが、それが私の定めならば私は戦おう。心の命ずるままに。
戦いの予感を前にして、オスカルの心は落ち着いていた。
「では、諸君、行こう!」オスカルの凛とした掛け声で、パリへの進撃は始まった。
「行こうぜ、みんな!」アランが叫ぶ。
荒々しい隊員たちは一斉に気勢を上げ、隊長のオスカルを先頭に、馬を走らせた。

 アランは当初から、オスカルをサポートして来た。その猛々しい副長ぶりは、謙虚なアンドレの存在感をしのいでいる。彼はただの乱暴者ではなく、まとめ役・世話役として隊の中心的人物でもある。
そのアランの考えの根底には、貧しさや身分制度に泣く人の悲しみがある。そして彼自身、貧しさと身分制度による裏切りを受け、母親と妹を亡くしている。彼は苦しんでいる人の痛みが肌でわかる男なのだ。
そのアランがオスカルに指揮をまかせてきたのは、冷静沈着な判断力が彼女にあったこと。すぐにカーッとなるアランは、自分にないものが何なのか、よく知っているのだ。オスカルの冷たい表情にいらだちながらも、それだけではない彼女の優しい心を見抜いていたのもアランなのである。

もちろん、アランはアランで独立して指揮系統はやりこなせるであろうが、適切な判断ができるオスカルが上にいるからこそ、アランは自分の思った通りの行動が出来るのだ。
上に立ってしまうと、自分のことだけを考えていることはできない。それにもし彼が間違っていれば、オスカルがいさめてくれるというのもあろう。
アランはオスカルという「おかあちゃん」がいてくれるから安心して暴れまわるのだ。いや、ひょっとして「おとうちゃん」かも知れないが…。

それに彼のように直感的にものを言う男は、比較的自由な発言ができる立場にいるほうが良いようだ。見ていても面白いし。
責任ある立場のオスカルが思慮深く、無責任な行動が出来ない分をアランが十分に補佐している。
何にしろ、自分の上に波長の合う上司が居ることは大変心強い。
オスカルとアラン。この二人は仕事の上では良いパートナーと言える。

また、男性が演出したドラマの特徴だと言うことにこだわれば、このアランが男性の視点でオスカルを観察していることではないだろうか。彼女が時折のぞかせる心の様子を、アランの感じたままに説明させている。
前半のオスカルが第三者の立場で物語を引っ張って来たように、アランは後半の物語の進行係である。道理でよく目立つはずだ。

それと、男たちのむさ苦しい兵舎での出来事は多く語られてはいないが、オスカルに助けられてから明るくなったラサールなども、「オスカルのためなら死ねる」と思ったクチかも知れない、などと妄想してみる。
そんな兵士たちとともに、オスカル率いる元衛兵隊は、パリのチュイルリー広場へと急行する。

 その頃、チュイルリー広場では軍隊と民衆が睨み合っていた。
だが、一人の男が兵士を挑発、それに乗った兵士は、その男の子供を撃ち殺す。それが引き金となり、血で血を洗うフランス大革命の幕が切って落とされたのだ。チュイルリー広場に進撃するオスカルたちに、軍隊が発砲した事が伝令で伝えられた。

ちなみにこのあたり、特に群衆シーンや戦闘シーンなどはとてもペンタッチが荒々しく描かれているのにお気づきだろうか?
戦いの場においてはダイナミックに動きを表現するためにかなり崩した太線などでデフォルメされており、オスカルやアンドレの表情や仕草を描くときのきめ細やかさとははっきりと描き分けてある。単に作画が荒いというものではない。

ただ、毎週30分の番組という限られた時間と予算の中、群衆などのシーンで一部同じ絵の使い回しや反転などがあるのはある程度仕方ないものだと思っている。
アニメでなくともたとえは漫画家でも群衆などは時折アシスタントさんが描かれているように、時間に追われるとどこかにしわ寄せはくる。
涙ぐましい制作スタッフのことを思うと、これを「ショボイ」一言でと言い切ってしまうのは出来るだけご容赦願いたい。

全体的に見ると、アニメ版(特に後半)については回ごとによってキャラクターの顔が違うなとの作画の乱れがほとんどないところが非常にクオリティが高いことは、今もすごく原作ファンとしても嬉しい限りだ。

チュイルリー広場に急ぐオスカル。だが、戦いはひとまずおさまり、軍隊は広場を占拠していた。民衆は群れになっていたとは言え、組織化されていた訳ではない。正面からぶつかって、軍の圧倒的な銃器の前にかなうはずはなかった。
民衆はベルナールの合図でひとまず退却することになった。

そこへ駆けつけたオスカル率いるフランス衛兵隊だが、民衆は彼らが革命に寝返ったとは知らす、軍隊にはさみうちにされたと騒ぎだした。衛兵隊と言うだけで、あわや民衆からも攻撃されかねない緊迫した事態。
オスカルは、それはちがうと、戦う意志がないことを民衆に説明した。
はさみうちにするなら、とっくに銃を発砲していたはずだと。

オスカルは民衆をかきわけ、とりあえず道をあけてもらい、軍隊が占拠しているチュイルリー広場に進んだ。そこには国王の軍隊が陣取っていた。
軍隊はドイツ人騎兵連隊指揮官ランベスク率いる隊だと名乗った。
「名はオスカル・フランソワ。しかし階級と称号はない!」
待っていたようにオスカルもそう名乗った。ド・ジャルジェの名は、すでに捨てていたのだ。

驚くランベスク指揮官。
オスカルは間髪を置かず右手を挙げ、衛兵隊隊員たちに銃を構えさせた。
「兵を引いて下さい、ランベスク公。さもないと我々はあなた方に対し一斉射撃をします」
オスカルは眉ひとつ動かさずに、ランベスク公を威嚇した。ランベスク公は徐々にこの異様な事態をわかりはじめていた。

「衛兵隊B中隊は今日限り全員除隊いたしました」
衛兵隊員も、このオスカルのひとことで気勢を上げた。
彼女の静かな威圧はランベスク公に充分伝わったらしく、彼はあわてて退却した。とりあえずは、無血で事をおさめたオスカル。

「この階級章はもういらないな」
オスカルは軍隊が去った広場に残り、胸の階級章を引きちぎって捨てた。
石畳に音を立てて落ちる階級章。かつての光に満ちた華やかりし日々が一瞬、オスカルの頭をよぎったものか。
貴族の将校としてアントワネットに仕え、階級章と共にあったこれまでの我が人生の事を。
だが、捨てていったものに悔いはない。彼女には信ずるものがある。信ずる人がいる。

軍隊が広場から撤退するやいなや、ひそんでいた民衆がぞろぞろ近寄って来た。アンドレは民衆たちの不穏な動きに気づいた。後ろを振り返るオスカル。
すぐに彼ら衛兵隊の兵士たちは民衆に取り囲まれた。
だが、民衆はオスカルたち衛兵隊員を信用していなかったのだ。
疑り深くにらみつける民衆たち。

オスカルの表情が固くなった。確かに、これまで衛兵隊は王宮守備のためにあった。彼らの不信を買うのも当然と言えば当然だ。民衆の中に入り込んで、いざとなれば後ろから撃つと思われても仕方がない。民衆の王室への不信感はここまで高まっていたのだ。
内気なラサールさえ、市民たちに反論しようとした。別の隊員も説得をはじめた。だが、そんなことで疑いが晴れるはずもなく、市民たちはオスカルたちに一斉に銃を向けた。隊員はうろたえてオスカルを見た。

「彼らの言うことはもっともだと思う。…我々の考えが少し甘かったようだ。だが…」
オスカルは落ち着き払って、持っていた銃や剣を抜き取った。
「ここはどうでもとにかく信じてもらわねばならない…」
もはや帰る所のない彼らだった。民衆を説得しようと、銃と剣をアランに預けるオスカル。ここでもしっかり、夫を部下扱いしない気配りがある。何だかんだ言って、アンドレにだけは他の兵士と違って、仲間ではなく妻として接しているオスカルがいじらしい。

 ここでなぜオスカルはアンドレに銃を渡さなかったのかという疑問があるそうだ。
夫とはいえ部下だし、一番信頼しているからこそアンドレに渡すべきなのか、軍隊なのに公私混同ではという意見もあるのかも知れない。
しかし軍隊とはいえ、裏切ってしまった彼らはオスカル率いる私設防衛団みたいなものだし、このシーンは兵舎でオスカルが兵士たちに結婚宣言したのを継承している。

アランに銃を託したのは、オスカルが夫のアンドレを兵士たちみんなの前で部下扱いしなかったというのが彼女の気配りである。
偶然だとは思うが、この後オスカルもアンドレも死んでしまって、アランが彼らの意志を引き継いで戦闘を続行したのだが、この銃を渡す場面がオスカルからアランへの「意志の引継」のように感じるのだ(もはや妄想モード)。

アンドレは心配げだ。何せ、隊長とは言え妻なのである。それにしても従うなんて言いながら、どこが従う女なのだろうか。戦いや統率にかけてはアンドレには出る幕はなさそうである。
オスカルは馬を下り、銃を向ける民衆の中に入って行った。彼女はたちまち、銃を四方八方から突き付けられた。
だがオスカルはそれでも顔色ひとつ変えない。その様子に、民衆はすぐに引き金を引くのをためらった。
「私の言うことを聞いてくれ。私は…貴族だった…」
人々の目が殺気立った。だがオスカルはそのまま話を続ける。
「…それだけでも私はここで銃を向けられて撃ち殺されても文句は言えない。だが、これだけは信じて欲しい。私と共にあり、私にこうせよと命じた隊員諸君は、私とはちがう。皆さんと同じ心を持った第三身分の出だ。衛兵隊で給料をもらいながらも、首を長くしてこの日が来るのを待っていた男たちだ」

オスカルは命がけの説得を続ける。兵士たちに代わって、憎まれ役を買って出るのだ。そして「民衆と共に戦いたい」という英雄的な立場は、全て部下たちの意志であるとして、彼女は主役を譲っている。立場が上(貴族であること)にある分、彼女はへりくだる。彼らはもう部下ではない、仲間なのだと、オスカルは思っているからである。

全体的に見ても、「…して欲しい」「私ごとき」「私にこうせよと命じた」などなど、オスカルは自分の主張に非常に謙虚。ここでも彼女は「私にこうせよ」と言い、隊員たちを立てている。
「彼らを、せめて私の隊員たちを信じてやって欲しい。そして一緒に戦ってやって欲しい。…そのために必要ならば私はここで撃たれよう」

オスカルは銃を構える民衆たちに無抵抗に両手を広げた。
彼女が両手を広げるのはこれで二度目である。前回も非暴力な態度で、近衛隊に対して体を張って抗議したのだ。不必要な流血を避けるために。

 そこへベルナールが民衆をかきわけて現れた。
ベルナールはオスカルの前に歩み出て来て、オスカルに手を差し出した。
二人は何も語らず、信頼しあっていることを確認するかのように固く握手した。
民衆の信任厚いベルナールがオスカルを認めたのならば、もはや誰も衛兵隊を疑わない。民衆は直ちに疑惑を解き、衛兵隊の革命への参加を歓迎した。

人々の群れは徐々に隊員たちの中に溶け込んでいった。
隊員たちも民衆たちと手を取り合った。
「いつかはこうなると思っていたよ…アンドレ」
ベルナールはアンドレに進み寄り、喜びを伝えた。
アンドレも馬を下り、二人は両手を添えて、固く握手した。

いつかの雪の降る寒い日、ベルナールはアンドレを誘った。それがこんな多大な兵力という形で今、実現したのである。オスカルを先頭に、団結した元衛兵隊の援軍。アンドレにすれば、思いすら遂げられるかどうかわからなかったあの雪の日から、半年は過ぎていたであろうか。これが時の流れというものかも知れない。時は最良の場面をここに用意していたのである。
そばで一部始終を見守っていたロザリーは涙を浮かべて飛び出して来て、オスカルに抱きついて再会を喜んだ。

 間もなく、アルマン連隊が500人の兵を連れ、チュイルリー広場へ進軍して来た。見張りがあわててそれを報告し、広場はにわかに緊張が走った。
オスカルは戦闘準備にかかった。アルマン連隊を広場に入れてはならない。先制攻撃あるのみ!
作戦は、…衛兵隊がおとりとなり、奇襲をかけてアルマン連隊を撹乱し、広場とは反対の方へ遠ざける。その間に市民たちにはバリケードを築かせ、少ない武器でも軍隊と互角に戦えるようにする…ことである。
実際、場所は違うが、バスティーユの砲台が市民を威圧したことにより、サンタントワーヌ地区ではバリケードが築かれたそうだ。それにチュイルリー広場ではすでに11日にアルマン連隊により、民衆は攻撃されていたらしい。

 オスカルの号令の元、元衛兵隊員はアルマン連隊の側面に奇襲をかけた(それにしてもこの急な坂道でも馬は大丈夫なのだろうか?)。
彼らはそれが、謀反を起こした衛兵隊の攻撃と知って混乱した。
そしてアルマン連隊は、広場とは反対方向に逃げる彼女たちを追いかけることに必死になり、オスカルの作戦どおり、次第に広場から遠ざかって行った。

だが、その戦闘のさなか、アンドレの目はどんどん悪化。視力だけではなく、明度もつかなくなってきていた。アランが彼をかばい、何とかこの場は切り抜ける。
 さて、おとりとして行動を開始する衛兵隊。オスカルは主役は譲ったものの、実質は戦闘隊長として市民や兵士たちの先頭に立つのだ。緊張連続の中、この戦いが済めば、アンドレとの時間が持てる、そんな希望が一瞬よぎったかも知れない。

 午後に入って、軍隊と民衆との戦闘は至る所で行われ、その激しさはますますエスカレートしていった。物語は、オスカルが出撃した午前8時から午後3時までいきなり話が飛ぶ。その間、オスカルたちは市民とともに戦闘に加わっていただろうが、どうなっていたのかは何故か描かれていない。
 彼女の願いも虚しく、王家と民との戦いは始まってしまったのだ。
相手は敵とは言え国王の軍隊、オスカルの元同胞なのだ。焼け石に水、それはわかっていても、むだな殺傷は避けたいところ。この物語が敵味方に分かれてひたすらドンパチという単純なストーリーだったらどんなに気が楽だったろう、と思う。

戦闘場面はあまりないので、彼女らは多分、ベルナールたちが広場でバリケードを築く時間稼ぎをしていたと思われる。だが、その後、状況はどんどん厳しくなる。
 そして、それまでは元衛兵隊員も、ほぼ全員が無事にそろっていたのだが、連隊本部から出された元衛兵隊員たち、オスカル以下50名の討伐命令はすでに全連隊へと行き渡っていた。この辺りから、オスカルたち衛兵隊の勢いが落ちてくる。彼らが敵に回したのは、まとまりがないとは言え、巨大な組織なのだ。
いや、彼らはそれなりにオスカルたちを討伐するという共通の目的で連帯感を持ちはじめていたかも知れない。軍隊はあらかじめ彼女らを待ち伏せ、一気に全滅させようとしていた。
圧倒的な数の違い。巨大な敵に立ち向かう悲壮感が漂いはじめる。

どこを向いても一斉射撃が待っており、組織だった攻撃と狭まる包囲網で、隊員たちは次々と命を落として行った。そして、オスカルに一度命を助けられたラサールまでが、敵陣に単身突入。止めるオスカルの叫び声もむなしく、一斉射撃を受け、絶命した。あの臆病者に見えたラサールでさえ、新しい時代のために生き急ぐようにして命を散らす。

しかし私は理屈抜きで、彼はオスカルのために命をかけたと解釈している(あくまで妄想モード)。
だが、勝ち目のない戦いに立ち向かう彼の壮絶な最期に、隊員の誰もがひとごとではないのだと、敗北の予感を感じたであろう。

 夕刻、オスカルたちはセーヌ川の橋の下でつかの間の休息をついていた。
元衛兵隊員50名は、約半数になっていた。
この人数では隊としては心細い。敵の包囲を破り、ベルナールたちのいるチュイルリー広場へ帰り、彼らと合流するしかなかった。
だが、軍隊は至る所におり、広場まで行き着けるかどうかわからない。
「だが、強引に突っ切るしかねぇ…でしょう?隊長!」

隊員たちが次々命を落としたことに少なからず責任を感じ、出発の命令をためらっていたオスカルに、アランははっぱをかけた。こういう時、比較的自由な発言が出来るアランならではのサポートである。
オスカルたちは、意を決して出掛けようとしていた。
だが、川岸には軍の兵士が見張りについており、オスカルの目はその姿をすかさず捕らえた。兵士も橋の下から出てきた衛兵隊員を即座に発見した。

とっさに銃を抜くオスカル。兵士もこちらを向くが早いか、銃を構えた。
と、同時に銃を発射するオスカル。そして敵の兵士もオスカルたちに向けて銃を撃つ。彼女の撃った弾は兵士に命中、そして、兵士の撃った弾は、オスカルをかすめることもなく、アンドレの心臓に命中していた。彼は突然自分に降りかかった災難に顔色を失い、ぼうぜんとした顔をオスカルに向けた。

「オスカル…」
アンドレはオスカルに歩み寄りつつ、どうっとうつ伏せに倒れた。我を忘れて駆け寄るオスカル。

「アンドレー!」
オスカルの叫び声が夕暮れの空に響く。



2003.2.19.up