アニメ版 ベルサイユのばら 徹底解説>HOME

解説 第38話〜第39話


 

だんだん、たいそうな話になってきました。

アニメ・ベルばらはそんなに「ものすごい話」なのかと、自分でも自問自答してみました。

でも、アニメのオスカルを語ると、下記のようになりました。

あくまで私の主観ですが、こうなります。

 

 

大切なテーマは語られない

 一体、オスカルは何を考えてたんだろう?と思った人、多かったりして。

実は私もそのうちの一人である。原作のオスカルの熱い思いは言葉にしてあった。たとえば思想的な「自由・平等・友愛」、そしてフランスの未来を信じる心。

とても自分にはかかわれそうもない壮大な夢。彼女はその夢を実現させる人々の中にいた。それがオスカルらしさだと思った。だが、アニメのオスカルの冷静な態度からはそれらの熱い夢が見えない。

だが、はっきり言おう。彼女が立ち向かおうとしたのは、「流血を伴う事態の解決・武力による弾圧」である。

武力を持つ者として、(そして彼女が女であることを考慮するなら)女という「産む性」を持つ者として、彼女は命こそが大事なのだという信条を持っている。ではどうしてオスカルはただ憂いを帯びた瞳で世の中を見、何も語らなかったのだろうか。…それはやはり大事なテーマは言葉にならないとしか言えないのである。オスカルが声を上げて「戦ってはならない、命を粗末にしてはいけない」と叫んでも、それは世間知らずのきれいごとに過ぎない。

現実をわかっているからこそ、実現不可能な夢は彼女の心の中にのみ存在するのだ。人の想いは言葉ではない。

 命のやり取りをする武人だからこそ、命の尊さをより感じていたオスカル。彼女の行動の軸は、全てこの「命を大事に」という信条から出発する。

普通、戦いのドラマでは主人公が勝利することが目的である。

だが、血を流し合う戦いに疑問を持ち、それを回避することを理想としたこの物語の主人公が、「女」だった事は大変意義があったと思う。それは戦いに勝利するこそが讃えられる男の世界への疑問であり、それを第三者として見つめるオスカルの瞳が、聡明な女として描かれているのだ。

 

命の重み

 後半、オスカルが平気で人の命を奪う場面はない。命の重みを考慮してか、アンドレやアランが銃を撃つ事はあっても、オスカルが軽々しく人を殺す事はない。隠されたテーマ、それが命の重みである。

だが、今は非常時・戦闘中である。撃つか撃たれるか。彼女は死に花を咲かせる気はなかっただろうが、死は覚悟していたはずである。

いくらオスカルが流血を避けようとしても、虐げられた人を守るためには、武力に対し、武力をもって対抗せざるを得ないのだ。

徹底して守りの姿勢の彼女も、攻撃は最大の防御という逆説からはのがれられない。

そして戦いに身を投じた者は、当然、自分も戦いに倒れても仕方がないという運命が待っている。

だが、オスカルが敵の兵士を撃つのと同時に、敵の撃った一発の銃弾は、彼女ではなく、夫であるアンドレの心臓を貫いた。

顔すらまともに写らない敵の兵士と、愛するアンドレの命は同等なのだ。その厳しい現実。

 ベルナールの元へ戻るため、アンドレを守るため、オスカルは戦鬼の如く敵陣を突破する。だが、ベルナールの所へ戻り、夫の手当を頼む彼女の声は震えているのだ。

 

失われた幸せ

 かけがえのない命はあまりにあっけなく失われる。生きる希望すら失ったオスカルは、ただひとりアンドレの面影を求めて夜のパリの町をさすらうのだ。この辺りは気の毒で見ていられない。

彼を愛していたことを長い間気付かずにいたことを、オスカルは激しく後悔している。彼にもう一度あえたなら、一言、「ごめんなさい」と言いたかったのだ。だがアンドレは二度と戻って来ない。

 絶望の淵の中、雨に煙るセーヌを振り返るオスカル。人の世ははかなく不確かなのに、彼女の悲しみは確実に存在し、癒えることなどない。

 アランは元気を出せとしか言いようがない。彼はオスカルには強くあって欲しいのだ。戦闘の隊長として、という物理的なことではない。オスカルの、弱者を守りたいという気持ち、その人のために尽くすという行為が、絶望より強いものであって欲しいというアランの希望である。そして彼の望む通り、オスカルは何度でも立ち上がってくる強さがある。アランはオスカルをリードしているようで、実は彼女に色々と要求して甘えている。彼女の人としての強さに尊敬し、ホレているのだ。

 

仲間

 明け方、民衆が口々に「バスティーユ」と叫びながら牢獄へと行進していく声に、路地で気を失っていたオスカルはふと目覚める。逆光でよく見えないが、路地の入り口に背の高い男のシルエット。

それは彼女を迎えに来たアランの姿なのだが、オスカルにはそのシルエットがアンドレに見えてしまう。

彼は言う。仲間が、信じて待っている、と。

 余命を宣告され、夫を失い、彼女には明るい未来は何も残っていない。さらに夜の間降り続いた雨は、オスカルの体温を奪い、アンドレの死は彼女の最後の命すら奪おうとしていた。悲しみに破れそうな心、どこで終わってもいいはずの人生…。

だが、彼女は立ち上がる。

私にはまだやることがある、そして私を待っている人がいる!

オスカルは最後の力を振り絞って戦いに臨むのだ。

 迎えに来たアランに、彼女は最後だからといって思い切り泣いている。

アランにしてもオスカルのために何か一つでもいい、役に立つことがしたかったのだ。しばし胸を貸すことなど喜んでするだろう。だが、彼はオスカルの肩の細さに愕然としたであろう。こんな細い体で、重い責任を背負い、涙すら隠して生きて来た女。

アランは、そんな強がるオスカルが、本当は普通の幸せを望んでいた平凡な女だと知った時、この女の虜となったのだ。

 そしてオスカルが顔を上げた時、そこには感情すら消し去った非情な司令官がいる。          

 

つぶやき…解説をしていて、つらい場面続きでした。

彼女のつらくて悲しい気持ちを、どこまで文章にして書けたかはわかりません。でも、愛する人と別れても尚、戦わなければと自分を奮い立たせる女性の強さ、いや、人としての強さ。私のこの文でどこまで表現できたでしょうか、自分の表現力の限界を感じました。

 
1998.12.31.up