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解説 第29話〜第30話



このあたりのエピソードはおすすめスポット。革命のドタバタが始まる前で、衛兵隊でのオスカルとアンドレの心の動きが描かれています。と思うほど二人の微笑ましい恋愛描写があちこちにあって、私は嬉しいぞぉぉっ。

 

 

愛されない自分

「将軍家に女など要らぬわ」

その一言でオスカルの人生は始まった。生まれた瞬間から、持って生まれた性を否定されたのだ。彼女は生きていくために、もとい、両親の前で子供として認めてもらうために、男としてあり続けるしかなかった。

だからある日、自分が女であると知った時から、オスカルの歩く道は厳しく険しくなったであろう。

女としての自分は誰からも愛されない、男にならねばと、彼女がかたくなな気持ちになっても不思議ではない。

そして、もっと怖いのは、自分の中の一部が愛されなかったという心の傷は、さらに傷つくことを恐れて、愛される事すら拒絶してしまうのだ。

 

もどかしい二人

 女を否定しようとしたオスカルと、彼女の魂を求めるアンドレ。しかし、近衛隊から衛兵隊へと転属したオスカルは、少しづつ彼に女としての目を向け始める。

 そう、衛兵隊での比較的平和なエピソードは何と二人の恋愛ドラマなのである。上下関係を取り除けば、好きなのに素直になれない女と、女を愛するあまり、寛大になりすぎた男の♂オフィスラブ♀なのだ。

「お前を守れるのは俺だけだ」と公言し、オスカルの反論すら無視するアンドレ。フェルゼンとの恋から逃げ出したオスカルにとって、逆境にもめげないアンドレの愛情は無駄な行為に見えただろう。だが自分の愛情を信じる彼の強さには彼女も根負け状態。切り捨てたい自分の中の女としての気持ちを求められ、オスカルは動揺している。

そして突然のジェローデルの求愛を拒絶するオスカル。笑う顔が最高に怒っている。女を忘れようとしているのに、身辺ではやたら彼女を女として扱いはじめるのだ。さらに父の説得もあっさり聞き流すオスカル。お前こそ跡取りとたたえながら、いまさら「女の幸せ」と言われてもそれは親の勝手というものだろう。だが、娘を思う気持ちを感じたオスカルは、すでに自立した自分に心配は無用と、反対に父を思いやるのだ。殴る蹴るの熱血オヤジも齢を取って丸くなったのか、いつの間にか自分の道を歩き始めたオスカルに押され気味。

一方、ばあやからオスカルの縁談をきかされてとぼけるアンドレ。手も足も出ない彼の苦しみはヤケになってケンカを買っても癒されるはずもない。

袋にされて「結婚なんかやめてくれ」と泣いているアンドレは正面切ってオスカルに求愛しているのだ。普段、感情を顔に出さないオスカルも、現実の恋愛を前にしておろおろするばかり。

だが、さすが男として育っただけあって、彼女にはアンドレの気持ちもわかるはず。自分のために大の男が泣いているのだ。男の涙は見てはいけない、彼女は介抱などできないだろう。

 その後のジェローデルはタイミングが悪すぎる。オスカルはアンドレのプッシュに心を奪われて彼の話など馬耳東風。背景もまるで砂漠で、不毛な会話を象徴している。ついにはジェローデルの従僕発言に腹を立て、とっとと帰ってしまう。

 

心変わり

 彼女がフェルゼンと踊ったのが1月頃だとすれば、衛兵隊に転属したのが4月。見合い話が出てアンドレが袋にされたのも同じく4月。6月頃にはラサール釈放の件で暴徒に襲われ「私のアンドレ♪」と叫んでいる事を思えば、フェルゼンへの思いはほんの半年ですっかり消えてしまったらしい。

思えばアンドレはタイミングがいい。フェルゼンの抜けたオスカルの心の穴にまんまと入り込み、☆好き好き☆という意志表示で強く押す反面、決して体を求めるのではなく見守るのである。これってけっこう地味だが、オスカルのように、愛を拒絶する女には一番いい薬かも知れない。これまで自分の女心を否定しなければ愛されなかった彼女には、人を信じる心と与え続ける愛情で、心の氷を溶かさなければならないのだ。

 

愛の形

 ではオスカルとアンドレがこのままうまく行ったかと言えば、ジャルジェ家の跡取り問題が片付き、平和な世の中が来るまでは平行線だったと思われる。

アンドレはひたすら愛を与え続け、オスカルはアンドレの気持ちを知りつつ、ジャルジェ家の責任から、彼との恋愛を先へと延ばすかも知れないなぁ…。とりあえず彼がそばにいたら寂しくないし、何となく曖昧な関係も彼女には恋愛の一つのようだし。うやむやな男と女の関係がある日突然変わるのは、何かのきっかけ次第だろうし。本当に二人を見ていると、じれったくてやきもきしてしまう。

そんな心の揺れが描いてあるシーンが、このあたりはざっくざっくあるのだ。

 例えば、父が狙撃されて駆けつけるオスカルは、父が無事と聞くやいなや泣きながらその場にヘナヘナと座り込んでしまう。なぜか、男として育った彼女がやたら女らしい。そこへアンドレのハンカチがサッと出て来て、オスカルは部下には見せない子供みたいな泣き顔を彼には示すのだ。

 その後、オスカルのねるとん舞踏会に供をするように、ジャルジェから命じられたアンドレ。父の命令をすんなり聞く彼に、オスカルは切ない目を向けている。又、舞踏会当日、屋敷へ帰ろうと誘うアンドレにオスカルは目も会わさない。…すねているのだ。本当は舞踏会に行くことなど引き止めて欲しいらしい。それに父の命令をいやがっているはずなのに、反抗しない彼にも腹を立てている。一体アンドレにどうして欲しいのか、いきなり「供はいらぬ」と怒鳴るオスカルにアンドレは女心はわからんという表情。「簡単に嫁には行かん」ではアンドレがますます悩むだけである。

 ものの見事に舞踏会をぶち壊したオスカル。それを聞いた父の涙は感動ものである。彼は娘の平凡な幸せを願う普通の親にすぎない。一方、オスカルは父を愛するあまり、これまで彼の期待に添おうとしてきた。彼女は自分の気持ちを押さえてしまう心優しい娘なのだ。だから今こそ幸せになって欲しいのに、結果的に自分の幸せを遠ざける事になってしまい、父として不憫でならないのだ。

 

つぶやき…ああ、なんてオスカルはまどろっこしいの。ホントはこのあたりからアンドレのこと、すんごく意識しているクセして、しら〜っと顔にも出さないんだから。

しかし恋する乙女なんてどこかでボロが出るもの。ごまかしたって、お見通しなのじゃ。

 

1998.12.31.up